原発事故の賠償責任「なし」でも…国には賠償基準を見直す責務ある 原発避難者訴訟

2022年6月18日 06時00分
 東京電力福島第一原発事故で発生した損害に対し、国に賠償責任が「ない」ことが17日、避難者らの4つの集団訴訟の最高裁判決で確定した。国は事故の5カ月後、東電に迅速に賠償金を支払わせるため賠償基準「中間指針」をまとめたが、東電の賠償責任を巡る司法判断は指針を超えた損害を認めてきた。賠償責任がないとしても、被災者救済に向けた国の責務が消えたわけではない。(小野沢健太)

東京電力福島第一原発事故で避難した住民らが国に損害賠償を求めた集団訴訟の最高裁判決を受け、記者会見する(前列左から)渡部寛志さん、中島孝さん、馬奈木厳太郎弁護士、丹治杉江さん、小丸哲也さんら原告側=東京・永田町の衆院第2議員会館

◆中間指針の改定に後ろ向き

 「中間指針は賠償額の上限を定める趣旨ではなく、裁判所の判断と矛盾しない」「ただちに見直すことには決してならない」
 4月末、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の会合で、委員から中間指針の見直しに後ろ向きな意見が相次いだ。3月に今回の福島、群馬、千葉、愛媛の4件を含む7件の集団訴訟で最高裁が東電の上告を退け、指針より手厚い賠償を東電に命じた高裁判決が確定。これを受け、今後の対応を決める会合だった。
 審査会は各判決内容を弁護士や法学者ら専門家に分析してもらう方針は決めたものの、実際に見直すかどうかは分からず、いつごろに結論を出すのかも未定だ。これまでに国は指針を2013年12月までに4度の微修正をしたにとどまる。指針では賠償不十分とする司法判断が相次いでいるが、見直しへのアクセルを踏もうとしない。

◆東電自ら賠償を判断

 中間指針の根拠となる原子力損害賠償法(原賠法)は、原発を運転する事業者に過失の有無にかかわらず賠償責任を課す。現行の賠償制度は、事故当事者の東電が中間指針に沿って、被災者の損害と賠償金を判断する。これまでに約10兆4000億円(10日時点)を支払ってきたが、原資は国が一時的に税金で肩代わりしており、東電が返済する。
 東電自らが損害を判断するため、「中間指針から外れている」として賠償を拒否する例は多い。国の機関が間に入って賠償額を決める裁判外紛争解決手続き(ADR)でも、東電は和解を拒否し、裁判へと発展したケースもある。
 賠償責任を負わない国は、東電と被災者との争いが深刻化しても前面には立たず、経済産業相が「指導」を続けるだけで、国の責任が不明確なことが被災者の救済を遅らせてきた。

◆「心から謝罪」と代読

 一方、東電は3月に中間指針を超える損害を認めた訴訟が確定した後も、他の訴訟で裁判所の和解勧告を拒否し、あくまでも中間指針以上の賠償の支払いを否定する姿勢を続けている。
 「皆さまの人生を狂わせ、心身ともに取り返しのつかない被害を及ぼしました。心から謝罪いたします」
 東電は5日、福島復興本社(福島県双葉町)で、被災者が勝訴した高裁判決の確定を受け、原告団に初めて謝罪した。しかし小早川智明社長の姿はなく、高原一嘉復興本社代表が社長名の文書を代読。裁判で責任が確定したにもかかわらず、社長は表に出てこない。
 国に賠償責任はないとはいえ、今回の最高裁判決は基準見直しの責任を否定していない。判決で菅野博之裁判長は、原発事故が起きた場合についてこう意見を付け加えた。「本来は国が過失の有無に関係なく、被害者の救済に最大の責任を担うべきと考える」

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