<カジュアル美術館>フィンセント・ファン・ゴッホ《サン=レミの道》 個性表す色の配置 笠間日動美術館

2022年6月18日 07時08分

1889−90年 油彩・カンバス 33.5×41.2センチ 笠間日動美術館蔵

 「この絵の作者はとても有名です。誰でしょう?」
 そう尋ねたら、正解する人は多いのでは。降り注ぐ陽光を受けたように輝く色彩、力強く躍動する太く長い筆触。「サン=レミの道」は、「炎の画家」と称されるイメージにそぐう、いかにもフィンセント・ファン・ゴッホ(一八五三〜九〇年)らしい作品だ。
 オランダ生まれの彼の姓はファン・ゴッホだが、日本ではゴッホの呼び名が定着している。三十七年の人生のうち、画業に励んだのは亡くなるまでのわずか十年。生前は評価されず、自ら命を絶った悲劇的な生涯も含め、最も印象深い画家の一人だろう。
 地元では暗い色調で労働者や風景を描いていたが、パリに出て印象派や日本の浮世絵の影響を受けて明るい彩りに転じた。「光」を求めて移り住んだ南仏アルルで芸術家たちの理想郷を夢見たものの、フランス人画家ポール・ゴーギャン(一八四八〜一九〇三年)との共同生活は個性の強い二人ゆえに破綻。精神に不調をきたし、自らの耳を切り取る事件を起こしてしまう。

◆木々や植物生き生き

 この作品は、治療のため自ら入院した療養院があったアルル近くの町サン=レミで描かれた。家から出てきて歩いているとみられる女性の周りに、この時期によく題材とした糸杉やオリーブ、小麦畑をほうふつとさせる木々や植物の茂みが生き生きと表現されている。
 笠間日動美術館の塚野卓郎学芸員は「小さいが、多くの画題がまとめられた集大成とも言える作品だ」と評する。葉の黄緑と影の藍色のように、隣り合わせることで互いが強調される「補色」の配置が巧みだとし、「精神的に病んでいたとしても、制作は非常に理論的に展開している」と指摘。その後の拳銃自殺も踏まえ、「つらい時期だったと思うが、カンバスに向かっている時は落ち着けたのではないか」と推察する。
 東京・銀座の老舗洋画商「日動画廊」の創業者長谷川仁(じん)、林子(りんこ)夫妻が一九七二年に長谷川家ゆかりの地に開館し、今年五十周年を迎える同美術館。同作は数ある収蔵品の中でも代表的な逸品で、長谷川徳七・現館長が入手した。塚野さんは「ゴッホがどう筆を置いていたのか。描き方がつかめるので、ぜひ実際に本物を見てほしい」と話す。

モーリス・ユトリロ 《パレット》 1933年頃 油彩・板 28.0×37.0センチ 笠間日動美術館蔵

 もう一つの目玉は、世界的にも珍しい画家のパレットコレクション。多くは実際に使われたものに本人が好んだ主題が描かれ、絵の具の配置などからは各自の個性や色の使い方までがうかがい知れる。
 白を基調に哀愁あふれるパリの街角を描いたモーリス・ユトリロ(一八八三〜一九五五年)が、画商にパレットを贈ったことを知った仁・前館長が「これはいい」と参考にし、親交のあった画家に頼んで譲り受けるように。今では三百五十点を超え、収集のきっかけとなったユトリロも加わった。
 もし、ゴッホに頼めば、どのような絵が描かれただろうか。そんな想像をふくらませ、鑑賞するのも楽しい。
 ◆みる 笠間日動美術館(茨城県笠間市)=電0296(72)2160=は、JR笠間駅から徒歩約20分。「サン=レミの道」と「パレット」は7月3日までの企画展「開館50年記念 パリ、東京、ニューヨーク モダンアートの軌跡」で展示中。開館時間は午前9時半〜午後5時(入館は4時半まで)。月曜休館。入館料は大人1000円、65歳以上800円、大学・高校生700円、中学生以下無料。
 文・清水祐樹

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