気候変動×ジェンダー 専門家と学生が座談会

2022年6月18日 07時15分

気候変動とジェンダーをテーマに座談会で話す5人=東京都千代田区の中日新聞東京本社で(木口慎子撮影)

 ジェンダー平等に取り組む企業は、気候変動対策も熱心? それぞれに対する取り組みを各社にアンケートして、結果を分析するプロジェクトを専門家が今春始めた。会社選びに役立ててもらうため、就職活動中の学生にインターネット上で情報提供することも計画している。働きやすく、環境にも配慮する企業を日本に増やしていく道筋を、専門家と学生が話し合った。 (司会・早川由紀美)

◆同時に取り組む企業増やしたい

 プロジェクトの発想はどこから生まれたのか。

大崎麻子さん

大崎麻子さん

 大崎 国連のSDGs(持続可能な開発目標)で重要なのは、今までのやり方を変えること。十七の目標の中で、それが一番難しいのが気候変動とジェンダーだ。気候変動は大量生産、大量消費、大量廃棄の社会を変える必要がある。ジェンダー平等は性別役割分業やそれを前提にした働き方、会社の仕組みを根本的に変えないといけない。未来の世代に持続可能な環境、社会、経済を残すために責任を果たそうとしている企業は、二つ同時に取り組んでいるのではないかと考えた。日本全体が弱いのがこの二つでもある。

吉高まりさん

吉高まりさん

 吉高 笹川平和財団とブルームバーグNEFの世界の一万社以上の企業を対象にした調査では、電力や石油・ガス、鉱業業界ではジェンダーの多様性の向上と気候変動などへの取り組みは相関関係にあるという結果も出ている。温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定を実現できるようにお金を流そうと、欧州ではESG投資(企業の環境や社会への取り組みを判断基準に取り入れた投資)に力を入れている。気候変動やジェンダーへの取り組みが圧倒的に弱いままで日本の企業が国際的に力を保てるかは疑問だ。調査をすることで、企業の取り組みを後押しできれば。

 アンケートの回答で分かってきたことは。

大崎麻子さん

大崎麻子さん

大崎 「ジェンダー平等」という視点を軸として、網羅的、包括的な取り組みをしている企業は少なかった。「人事」「コンプライアンス(法令順守)」と個別にとらえるのではなく経営戦略に統合することで一貫した取り組みを行うことができ、企業価値の向上にもつながる。設問への回答に得点をつけて分析したところ、環境への取り組みの上位五社のうち三社は「取締役会の女性比率の数値目標・行動計画がある」と回答している。

◆うわべだけかもと疑ってしまう

 学生の皆さんの気候変動、ジェンダーへの関心は。会社選びの基準になるか。

池上慶徳さん

池上慶徳さん

 池上 多くの学生にとっては、大きな理由にはならないと思う。ただ取り組める余裕に魅力を感じるという学生もいる。ジェンダーや気候変動の取り組みを大げさに見せるのはウォッシュ(うわべだけの取り繕い)になりかねないし疑ってしまう。


◆面接では「ばかなふり」自分が嫌

細野侑璃さん

細野侑璃さん

 細野 ジェンダーや気候変動に関心はあるが、就職活動という現実の中では友達と「(女性は)ばかなふりをしていたほうが面接官の受けがいいよね」と話をすることもある。そういうことを考えてしまう自分が嫌だなと思う。消費者の選択により企業が変わるように、就活生の選択により企業が変わることは理解できるが、実際は企業に消耗させられていると感じる。


◆おじさん受けよさそう…悲しい

横山朱夏さん

横山朱夏さん

 横山 SDGsについて学校で学んだ自分たちの世代と、SDGsをわかっていない面接官や役員世代(会社)とのギャップを感じる。「おじさんに気に入られそうだね」と言われたこともあった。ふとした時に考え方が見えてしまうのが悲しかった。就活では、企業が社会課題にどう取り組むかを判断の軸にしていた。人の行動の積み重ねが社会課題を生む。そのことを企業が責任を持って人に伝えなければ、社会は変わらないと思う。社会人になってもその考え方は大切にしたいし、上の世代とのギャップを埋めていきたい。

池上慶徳さん

池上慶徳さん

 池上 就活生にとって大切なのは個人への待遇だと思う。気候変動やジェンダー平等に取り組む企業が長い時間軸で見て生き残るとか、市場価値的に高くなるという相関関係が出せれば、学生にとって説得力のあるデータになると思う。

◆10年先から見た会社評価が必要

吉高まりさん

吉高まりさん

 吉高 将来的に企業価値がどうなるかは今の株価などの断面では判断できない。先ほど言った、環境や社会への取り組みを判断材料にするESG投資では、十年後にその会社がどうなるかという観点から評価している。リーマン・ショック(二〇〇八年)などを経て、投資家もやっと将来を見据えた分析評価を始めたところ。新たな会社の評価の仕方を皆で作っていく必要がある。


大崎麻子さん

大崎麻子さん

 大崎 今回のプロジェクトでは男性の育休について取得率や取得期間についても設問に入れた。男性が家事・育児の責任を担えるようにするのもジェンダー平等推進には欠かせない。若い世代が望んでいることでもあり、人材の獲得や定着率の向上にもつながるだろう。


 四年生の横山さん、細野さんは後輩たちに伝えたいことはありますか。

横山朱夏さん

横山朱夏さん

横山 両親は昔の価値観のままなので、株価の高い企業が良いのではと言われたこともあった。社会課題解決をできる企業が生き残っていけると思うと伝えたら納得してくれた。SDGsを学び、将来を考えて意見を言える人が下の世代にはもっと多くいると思うので、その価値観を忘れないでほしい。

細野侑璃さん

細野侑璃さん

 細野 自分の就活は交流サイト(SNS)頼みだった。企業の環境や社会への取り組みなどを判断できる情報が就活生にも届く仕組みができれば、次世代にも企業にも世界にも役に立っていくのかなと思う。

◇環境影響をより受ける女性

 女性は気候変動の影響をより受けやすい。途上国で水不足が起きれば、女性の仕事とされている水くみに遠くまで出掛けるなど負担は増す。その分、教育や経済活動の機会が奪われる。
 国内でも、大雨や短時間強雨の回数は増えている。避難所などでは性暴力などの危険は増すが、行政の防災分野や避難所運営への女性の参画は遅れている。
 2015年に採択された気候変動対策の法的枠組みである「パリ協定」には、ジェンダー平等の重要性が明記されている。21年、英グラスゴーで開かれたCOP26では、気候変動対策に女性や女の子が果たす役割を前進させることを求める声明が発表された。

◇アンケートで企業分析

【ジェンダーダイバーシティと気候変動アクションの関連性プロジェクト】
 座談会に参加した大崎麻子さんや吉高まりさんら、ジェンダーや気候変動対策の専門家など5人で今春活動を開始。二酸化炭素(CO2)排出の多い国内企業50社(鉄鋼、電力など)と気候変動対策を積極的に行っている企業56社の計106社に4〜5月、アンケートを実施した。気候変動関連(カーボンニュートラル目標の有無など)、ジェンダー平等(取締役会の女性比率の数値目標や行動計画、男女賃金格差是正の取り組みの有無など)計75項目を尋ねた。現在26社から回答を得ている。今後、分析結果を「エコほっとライン」ウェブサイト(https://www.ecohotline.com/)で順次公表予定。

 世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑えることが国際的な目標です。東京新聞はSDGメディア・コンパクト加盟社として国連との共同キャンペーンに参加しています。


前のページ

おすすめ情報

気候変動/1.5度の約束の新着

記事一覧