<書評>『沖縄のことを聞かせてください』宮沢和史 著

2022年6月19日 07時00分

◆「島唄」めぐる30年の葛藤
[評]篠崎弘(評論家)

 「島唄」は元々は鹿児島県奄美地方で民謡を指す言葉だった。それを琉球放送の上原直彦氏が沖縄に紹介し、沖縄でも一般名称になった。「シマ」は島嶼(とうしょ)だけでなく村落や共同体も意味するから、「島唄」は古い民謡も新作ポップスも含む「この土地の唄」といった意味も持つ。
 一九九二年に著者のバンドTHE BOOMが琉球音階を取り入れた「島唄」を発表すると大ヒットした。いまや普久原恒勇(ふくはらつねお)氏の「芭蕉布(ばしょうふ)」やBEGINの「島人(しまんちゅ)ぬ宝」と並んで沖縄を代表する唄だ。
 だが、そのヒットに困惑する人たちもいた。民謡の島沖縄で、ヤマト(本土)の人間が、いわば「民謡」というタイトルの唄を作ったのだ。評者も半世紀近く沖縄通いを続けてきたから、民謡酒場で観光客から「島唄」をリクエストされた時の歌い手たちの戸惑った顔を幾度となく見て、その困惑を共有してきた。
 しかし最も困惑したのが作詞作曲した当の宮沢氏だったようだ。ひめゆり平和祈念資料館で受けた衝撃がきっかけで生み出された「島唄」は、人々に愛され、「痛快だった」と評価もされた反面、「あんたの音楽こそ帝国主義じゃないのか」「通りすがり」の「つまみ食い」と批判する声も聞こえたという。だが宮沢氏は「こうなったらとことんつきあってやろう」と沖縄の音楽や歴史に向き合い続けた。本書の前半はその三十年間の記録だ。
 宮沢氏は葛藤を抱えながら沖縄通いを続け、多くの歌い手に島唄二百四十五曲を歌ってもらったCD十七枚組ボックスセットを作ったり、三線の棹(さお)になる「くるち」(黒木=琉球黒檀(こくたん))の苗を植える活動に力を注いだり。そして沖縄の歴史や伝統の「水脈」と一人一人の人間の繋(つな)がりのあり方を見つめ、沖縄を通して日本の戦後を見据える視座を持つに至る。
 後半は書名の通り民謡歌手や演出家、元ひめゆり学徒隊員ら十人との対談を収めた。アーティストのエッセイというレベルをはるかに越える内容。項目ごとに編集者がつけた注釈も詳細で誠実な仕事ぶりだ。
1966年生まれ。89〜2014年、THE BOOMのボーカルとして活動。
(双葉社・2420円)

◆もう1冊

新城和博著『増補改訂 ぼくの沖縄<復帰後>史プラス』(ボーダー新書)。沖縄の出版社ボーダーインクの編集者が振り返る、復帰50年の同時代史。

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