[花柄の鍋] 川崎市幸区 横田由美子(67)

2022年6月19日 08時09分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修
[何かやっちゃった人]東京都八王子市・自営業・63歳 小川ひろ子

 朝、妻が、新聞に載っている誰かの写真を見て、
 「この人、久しぶりに見るけど、確か、何かやっちゃった人だよねぇ。何をやっちゃったんだっけ?」
 と言いながら、その写真を私の方に向けた。
 「あー、そうだね。何かやっちゃった人だ。えーっと…何だったかなぁ」
 私も思い出せない。
 というのも、あまりにも次から次へと、何かやっちゃった人が出てくるからだ。
 妻は、しばらく眉根を寄せて写真を睨(にら)んでいた。
 が、あきらめたのか新聞をバサッとテーブルに置いた。
 そして一呼吸置いて、意味ありげな視線を私に寄こして言った。
 「でもさぁ、あなたがやっちゃった事は、絶対忘れませんからね」

<評> 新聞に限らず、最近の映像重視の報道には嵐のような一過性の傾向が見られます。となると、このような現象も起こりがちですが、そうです! 何があろうと忘れちゃいけない出来事がありますね。

[村の池]愛知県あま市・パート・68歳 横井孝彦

 一雨ごとに夏草が伸び、池の周りは小さな密林。
 夜になると蛙(かえる)の大合唱が始まる。
 それに悩む住民から、草を刈ってほしいと頼まれた。
 数日後に池を見ると草が刈ってあった。近所の住民からは、静かになって安眠できると喜ばれた。
 でも誰が草刈りしたかは不明のままだった。
 何日かたってから、深夜になると池から動物の声がすると訴えがあった。そっと近づいて耳を澄ますと、かすかに声がする。
 ここは以前、洗い場だった場所。
 野菜や食器、時には猟師が射止めた鳥や兎(うさぎ)も洗っていたと聞く。
 何も打つ手がなく、しばらく放っておいたら、また草むらが出来た。
 でも、動物の鳴き声はやみ、蛙の大合唱が再び始まった。
 自然のままが一番良いみたい。

<評> 私たちが身を置く環境は、生きとし生けるみんなのもの。勝手に管理できると考えるのは大間違いかも。一緒に住まわせてもらっている野山には、もっと大きな時間の流れが巡っているようです。


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