デフリンピック不完全燃焼の無念、陸上日本選手権で晴らし、前へ 聴覚障害者種目も初めて実施

2022年6月20日 06時00分
 6月9〜12日に大阪であった陸上の日本選手権で、競技普及の一環として、聴覚障害選手を対象にしたオープン種目が初めて実施された。5月にブラジルで開催された聴覚障害者の国際総合スポーツ大会、デフリンピックの日本代表が参加した。日本選手団は現地で新型コロナウイルスの感染者が続出し、大会途中で出場を辞退。大阪は、力を発揮する場を失った無念を晴らす舞台ともなった。(神谷円香)

日本選手権デフ男子100メートル トラックを駆け抜ける山田真樹(中)と佐々木琢磨(右)=いずれも12日、ヤンマースタジアム長居で

 「もやもやした気持ちのまま時間が過ぎていた。日本選手権をきっかけに新しい気持ちに切り替えられた」
 男子100メートルのレースを終えた25歳の山田真樹(渕上ファインズ)は、すっきりした表情を浮かべた。ブラジルでは、連覇がかかった200メートルと400メートルリレーに出られなかった。失意は大きい。でもこの日、ブラジルで男子100メートル金メダルに輝いた佐々木琢磨(仙台大職)に競り勝ち、10秒98で優勝。「デフ種目を開催してもらって感謝している」と喜んだ。

◆異なる障害持つ人も…「陸上ファミリー」拡大中

 デフ種目は日本選手権最終日の12日、男子100メートルのほか、男女800メートルと男子400メートルリレーが実施された。代表7人を含む聴覚障害選手11人が参加した。

日本選手権デフ男子100メートル トラックを駆け抜ける山田真樹(中)と佐々木琢磨(右)

 昨年の日本選手権で、日本デフ陸上競技協会の担当者が日本陸上競技連盟に「デフ種目の実施を」と働きかけたのがきっかけ。既に2016年の第100回大会で義足と車いすの種目が、昨年は異なる障害の男女4人がタッチでつなぐユニバーサルリレーが行われている。以前から「陸上ファミリー」の拡大を進める日本陸連も快諾した。
 当初はブラジルから多くのメダルを持ち帰り、大阪で凱旋がいせんする青写真を描いていた。それが一転、途中から出場さえかなわぬ事態に。陸上は大会後半の日程だったため、多くの選手が地球の反対側まで行きながら予定種目を終えられず、涙をのんだ。デフ陸協は「陸上選手には感染者がいないし、屋外競技。出場させてほしい」と、選手団を統括する全日本ろうあ連盟に訴えるも、決定は変わらなかった。

◆25年大会は日本が招致中…デフ競技知ってほしい

 一方、ブラジルでスタートラインに立てた選手たちも、違った思いで日本選手権に臨んだ。佐々木は金メダル獲得の悲願を達成し「ほっとして気持ちが切れていた」と率直に明かす。それでも走ったのは「デフスポーツを知ってもらう機会になれば」と思ったから。レースの映像はインターネットで配信された。
 女子1500メートルで銅メダルの岡田海緒みお(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)も、帰国して間もない中で「記録を狙える状態ではなかったが、周りに応援してもらい集中して走った」。ブラジルでは本命の800メートルに出られなかったが、ショックを引きずってはいられない。25年に開催される次回のデフリンピックは、日本が招致を目指している。「今は次を、前を見ていく」。また多くの人に見てもらえるよう、新たなスタートを切る。

 デフリンピック夏季ブラジル大会 73カ国から選手約2400人が参加し、5月1〜15日に20競技が行われた。全日本ろうあ連盟によると、大会初日から日本選手団149人(うち選手95人)の中で新型コロナウイルスの感染者が確認され、計11人に上った10日、翌日以降の全競技での出場辞退を決めた。外部との接触を遮断するバブル方式を取らないなど大会運営上の感染対策が不十分で「競技会場での感染リスクが高い」と判断した。感染者は最終的に計23人に増え、5月30日までに全員が帰国した。日本は出場した10日までに金12を含む史上最多の30個のメダルを獲得した。

◆一般種目にも出場、情報の公平性は課題

 日本選手権でのデフ種目は初めてだが、一般種目に出場する聴覚障害の選手は、以前からいる。円盤投げのデフリンピック代表、湯上剛輝まさてる(トヨタ自動車)はその1人。元日本記録保持者でもある。今回の日本選手権では1位と2センチ差の59メートル43をマークして地力を示し、ブラジルで投げられなかった悔しさをぶつけた。

デフ男子100メートルでレースの準備をする選手たち。光でスタートの合図をする装置が置かれている

 日本デフ陸上競技協会に登録する選手は約70人。記録の公認には日本陸連への登録が必要なため、ほとんどの選手が両方に登録する。選手はデフ陸協が主催する年1度の選手権のほか、日本陸連の公認競技会にも出ている。日本陸連への登録には、障害の有無の記入欄はない。
 聞こえる人に交じって陸上に取り組む聴覚障害者は少なくないが、スタートの音が聞こえないなど、情報保障の課題がある。今回の日本選手権では、光で合図するスタートランプをデフ陸協が提供したが、まだ国内に数台しかなく、デフ陸協が普及を図っている。

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