一度は途切れた「日本一の納豆」の味、91歳の名人直伝で継承 さいたま市の福祉作業所が奮闘中

2022年6月20日 11時30分

大豆を蒸す大釜の前で蒸気のかけ方を指導する松嶋さん(右)=さいたま市で(出田阿生撮影)

 大粒でふっくら。かむと驚くほどやわらかく、濃厚な大豆の風味が広がる-。そんな納豆が、埼玉県にある障害者の福祉作業所で作られている。製造を手ほどきするのは、かつて納豆の鑑評会で「日本一」に輝いたことがある91歳の職人。3年前に廃業したが、それを知った地元の社会福祉法人が「名人の技を継がせてほしい」と頼み込んだ。伝統の味がよみがえり、評判を呼んでいる。(出田阿生)

「豆の蒸かし方が一番大事」と話す松嶋俊雄さん(右)と妻の澄子さん=さいたま市で

 さいたま市北区の納豆製造所。原料の大豆を蒸す湯気がもうもうと白く立ち込める中、納豆職人の松嶋俊雄さん(91)が「豆がかぜひいちゃうから、換気扇は止めて。人間が居心地いいのはダメ。納豆は寒いのが嫌いなんだ」と、いすに座りながら指示を出す。働いているのは知的障害や精神障害がある6人の障害者と、支援員たち。大豆を水に浸して蒸し、納豆菌をかけ、熟成させて約3日で完成。機械化が進んでも、最後は職人の勘が決め手になる。
 松嶋さんは同市内で58年間、妻の澄子さん(84)と「松葉納豆」を営んできた。1997年開催の第2回全国納豆鑑評会では、中粒・大粒部門で日本一に輝いた。しかし、3年前に年齢による体力の限界を感じ、後継ぎもいないことから自身の製造所を閉じた。
 その話を耳にした社会福祉法人「埼玉福祉事業協会」(同市)の高橋清子理事長が「ぜひ引き継がせてください」と依頼。「うちの施設の給食に松嶋さんの納豆を出していた。みんな大好きな味」という。

◆「松嶋さんの納豆愛がすごい」

納豆につけるたれとからしを並べるスタッフ=さいたま市で

 同協会の作業所では14年前から、品質向上と障害者の工賃アップのために民間の職人に技術指導してもらい、パン製造などに取り組んできた。松嶋さんも指導を快諾してくれたが、準備を進めていた昨秋に病気で入院。新しい製造所の竣工しゅんこう式にも出席できず皆で気をもんだものの、復活を果たし、指導に来てくれるようになった。
 高橋さんは「とにかく松嶋さんの納豆愛がすごい。長年の勘で教えてもらうと、がらっと味が変わる」と感心しきり。原料にこだわり、北海道産の大豆「とよまさり」を使う。今年5月から本格的に製造を始め、「まつば納豆直伝 最高峰杉の子」の商品名で週に約1500パック出荷する。

松葉納豆の味を引き継いだ「杉の子納豆」=さいたま市で(出田阿生撮影)

 「味は最高。後はもう少し色が良くなるといい」と松嶋さん。「おいしかったから」と一度に20~30パック買い込んでいくリピーター客もいるという。作業に励む鈴木昇さん(67)は「自分たちが作った納豆を、おいしいと言ってもらえるのがうれしい」と笑顔で話す。
 納豆の売り上げは全て障害者の自立のための作業工賃となる。「杉の子納豆製造所」「杉の子マート本店」(いずれもさいたま市)などで取り扱うほか、通販で販売している。「今後はスーパーにも販路を広げられたらと願っている」(高橋さん)という。問い合わせは埼玉福祉事業協会法人本部=電048(625)5100=へ。

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