TPP 「強い農業」見えぬ具体像 対策費計上 歯止めなく

2019年11月26日 02時00分
 環太平洋連携協定(TPP)がまとまった二〇一五年度以降、農林水産省が毎年度計上している、海外農産品との競争にさらされる国内農業の強化を名目にした対策費が、農産品への影響試算額を上回り続けていることが分かった。農水省は「対策費は影響額と関係なく、強い農業を実現するためのもの」と説明。だが、「強い農業」には定義がないため、予算計上は歯止めがきかなくなっており、専門家から批判が出ている。 (吉田通夫)
 TPPは日米など十二カ国で一五年に合意。政府は関税を徐々に下げたり撤廃することで海外からの農産品の価格が下がり、最終的に国内の農産品は最大二千百億円分の影響が出ると試算。これを機に「強い農業」を目指し、食品や農産品の輸出額を一兆円に増やす目標を掲げた。一五年度の補正予算では、先進的な農機の購入補助など影響試算額を大幅に上回る三千百二十二億円を計上した。
 一七年には米国がTPPから離脱し、日本政府は十一カ国でのTPPをまとめ、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)にも合意。国内農業への影響額は、単純合計で最大二千六百億円と試算し直した。一方、対策面では「強い農業」や輸出額一兆円という目標は変えず、一六年度以降も補正予算を中心に三千百七十億~三千四百五十三億円を計上。影響試算額を上回り続けてきた。
 農水省は「対策費は農業の強化のためで、影響額とは関係ない」(担当者)と説明。しかし同省は一五年の試算発表で、対策の効果によって影響を小さくできるとも説明しており、一定の関連を認めている。
 今年九月には米国との貿易協定がまとまり、TPPと合わせた農産品への影響額は一五年の試算を基に最大二千億円とはじいた。日EU・EPAの影響額との単純合計は最大三千百億円となる。これまでの対策による影響額への効果について検証がないまま、政府は近く一九年度の補正予算で対策費を積み増す方針だ。
 食品や農産品の輸出は好調で輸出額一兆円の目標は達成間近だが、農水省の担当者は「『強い農業』の定義はない」と説明。対策に終わりは見えない。
 農水省出身でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「かつてに比べて為替相場は関税分を相殺するほどの円安になっており、本来はTPPなどのための対策は必要ない」と指摘。「本当に強い農業を目指すなら、まずは関税や補助金なしで農家に自発的なコスト競争を促すべきだ」と語った。
<農産品の影響試算額> 2015年に日米など12カ国で合意した環太平洋連携協定(TPP)など大型の通商協定で、影響が懸念された農産品について農林水産省が試算した影響額。関税の引き下げや撤廃などで海外から安価な農産物が流入し、国産品は農業強化策により生産量を維持するとしつつ、競争のため価格が下がると推測。牛肉や豚肉、果物、水産物など影響が予想される品目ごとに価格の下落額を推計し、積み上げた。

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