温暖化が変える農業の適地…アボカドが岐阜の名産品に?三重では南国フルーツが急成長

2022年6月30日 12時00分

ビッグデータを活用した栽培適地の探索支援ツール

気候変動「適応」と産地 地球規模の気候変動による気温上昇で、ミカンやコメ、クロノリなどの収量や品質に影響が出ている。農業や漁業の現場では、気候変動の事実を受け入れて対策を打つことが重要だ。中部地方でいま起こっている変化と、生産者や研究機関、行政の「適応策」を紹介する。(中日新聞経済部・竹田弘毅)

柿は黄色く、適地は北へ

 「昔に比べて、富有柿の色が薄くなる年が増えた
 岐阜県と岐阜大が設置した岐阜県気候変動適応センターによる調査で、「甘柿の王様」と呼ばれる富有柿の着色不良が起こり始めていることが分かった。
 カキは、秋の気温が下がることで緑色の成分が薄くなり、オレンジ色の「カロテノイド」が濃くなる。

通常のカキ㊧と着色不良で黄色っぽくなったカキ

 ①年間の平均気温が15~16度②9月の平均気温が21~23度③10月平均気温が16度以上という3つの要素を満たすことが着色に重要で、2000年代の気象データでは、岐阜県南部の本巣市や瑞穂市など主な産地が条件を満たしていた。
 だが、2040年代の気温予測では、現在の産地のほとんどが最適な栽培条件から外れてしまうことが発覚した。9月の気温上昇により、多くの地域で②の条件が満たせなくなるためだ。

2000年代㊤と2040年代のカキ(富有柿)の栽培適地。赤い部分が適した気象条件の土地。(いずれも岐阜大提供)

 40年代の栽培適地と予想される地域は、平野部から逃げるように比較的冷涼な山あいに移動している。予測を裏付けるように「最近色づきの悪い柿が増えた」と平野部の生産者がこぼすのに対し、山際では「うちはそうでもない」という返答が目立った。
 日本の年平均気温は、1990年以降、高温になる年が頻出するようになり、長期的には100年当たり1.28度のペースで上昇を続けている。温暖化対策をしない場合の予測では、20世紀末に比べて4.5度、温室効果ガスの発生を最大限に抑えた場合は1.4度上昇するとみられる。
 深刻さは増す一方だが、岐阜大の山田邦夫教授(園芸学)は「温暖化で、岐阜で柿が作れなくなるということでは決してない」と強調する。
 中身の成熟と色づきのメカニズムは別のため、色づきが悪いからといって、糖度など風味が劣るわけではない。山田教授は「(中身の成熟と色づきの)バランスが変わってきている」と説明する。
 そのため、生産者が従来の経験から、色づきを見て収穫のタイミングを決めると中身が熟し過ぎてしまう。ところが、中身の成熟を基準にして収穫すれば、着色不良の実として扱われ、選果基準を満たせずに安い値付けをされたり、廃棄や加工品用にせざるをえなかったりする。
 「黄色っぽいカキは甘みが薄い」という根強いイメージがこうしたジレンマの原因だ。消費者が店頭でカキを見比べたとき、色味の善しあしが購入の決め手となりやすいため、スーパーなど流通業者は着色不良に厳しい。山田教授は「着色不良だと味が悪いというイメージを変える意識改革が必要だ」と主張する。

栽培適地広がるメリットも

 果樹では栽培適地が徐々に北上していくとみられている。
 例えば、年間の平均気温15~18度が適温のウンシュウミカンは現在、温暖な気候の沿岸域で作られていることが多いが、農研機構で果樹を研究する杉浦俊彦さんは「今の産地の半分ぐらいは気温が1度でも上がると適温から外れ、内陸部や少し標高の高い地域が適地になる可能性がある」と話す。
 
 既存の果樹の栽培適地が北上するなど、気温上昇による影響はデメリットが話題になりやすい。一方で、南国や沖縄でつくられていたようなフルーツが本州でも作りやすくなるメリットがある。
 温暖化が極端に進んだ場合に備え、富有柿に変わる果樹を検討している岐阜県は、アボカドやグレープフルーツ、レモンを候補に挙げた。これらは共通して、国内流通が多く認知度が高い。加えて、国産の比率が20%未満と海外に強く依存しているため、国内で作れれば売上が見込める。
 冬期の最低気温の問題など岐阜県の気候条件を考慮し、現状ではアボカドが一番の候補と見込む。果実がやや未熟な状態で輸入している海外産に対して、国内で完熟させた果実は食味でも優位に立てるとみて、県の試験場で栽培試験を進めている。岐阜大の山田邦夫教授は「常に売り場があり、市民権を得ている」と期待する。
 全国で、従来はその土地で育てていなかった果樹の導入が進んでいる。リンゴ産地の青森県では近年、モモの生産が進む。山形県の渋柿の産地では気温上昇を考慮し、高い温度が必要な甘柿品種の導入実績がある。このほか、全国でアボカドやマンゴーなど、熱帯性果樹の産地化プロジェクトが進められている。

伊勢志摩発、南国フルーツ

 気候が温暖で、かんきつ類の生産が盛んな三重県にも、熱帯性果樹の栽培に取り組む生産者がいる。
 「伊勢志摩から亜熱帯のフルーツを売り出していきたい」
 三重県南伊勢町で、ウンシュウミカンなどを生産する農事組合法人「土実樹(つみき)」の溝口安幸代表理事(67)が丹精して育てているのは、さわやかな酸味を持つ実が特徴の、南米原産の亜熱帯果樹パッションフルーツだ。
 国が果樹産地用の適応策として始めた研究事業に協力したことがきっかけだった。三重県農業研究所紀南果樹研究室からパッションフルーツの栽培ノウハウを学んだ。本来は多年生の植物だが、毎年、苗を入れ替えることで野菜のように「一年一作」の栽培ができる。千葉県など東日本まで広く栽培が可能で、有望な果樹とみられている。

パッションフルーツを育てる土実樹の溝口安幸代表理事

 土実樹では、日当たりの良い山あいの農場にある露地とハウスで、霜が降りなくなった3月ごろから栽培を始める。トケイソウの仲間のため、つるの先に時計の盤面のような形の花が咲く。夏になると、卵型の実が紫色に成熟する。
 特産品としてブランド化を目指そうと「伊勢志摩パッション」と名付け、直売所で青果や加工品を販売する。今年4月にはパッションフルーツのゼリーやジャムの新商品を売り出した。苗も提供している。
 鉢の数は、昨年の400個から今年は1500個に規模を広げた。さらにハウスを拡充する計画もある。マンゴーやパパイア、オーストラリア原産のかんきつ類「フィンガー・ライム」といった海外の果樹の栽培も試みている。溝口さんは「いろいろと挑戦し、安定して稼げるようにしていきたい」と意気込む。
 「こんなに完成された果物があるのか」
 同じく南伊勢町で、ミカンや梅を手掛ける「やまで農園」では、国内では珍しいアテモヤという果樹をハウス栽培している。
 アテモヤは、バンレイシとチェリモヤという果樹の交配種として生まれた亜熱帯果樹。果肉が白色でクリーム状なことから「森のアイスクリーム」と呼ばれる。園主の山出陽介さん(43)が三重県農業研究所で試食し、味に惚れ込んだのをきっかけに10年前から生産を始めた。

亜熱帯果樹アテモヤの果実(いずれも三重県農業研究所紀南果樹研究室提供)

 果実は糖度が20~25度と濃厚な甘さがあるが「さわやかな酸味もあり、飽きることなく食べ続けられる」。甘さの割に低カロリーで、ビタミンやカリウムなどの栄養素を多く含むという。
 山出さんは、2アールのハウスで、5度を下回らないように管理しながら2種類のアテモヤを育てている。
 収穫シーズンは10月~12月。収穫直後の実は生のサツマイモのような硬さだが、1週間ほど追熟の期間をおくと「焼き芋のような柔らかさ」に変わる。冷蔵庫で冷やし、スプーンですくって果肉を味わう。果実は、地元の直売所のほか、東京の百貨店や高級果物店で1個数千円で販売される
 山出さんによると、アテモヤは国内では沖縄などで栽培されているが、三重県で育てると通常の2~3倍になるという。秋以降に「急にぐぐぐっと大きくなる時期がある」といい、握りこぶし二つ分、ソフトボールのような大きさに育つ。大きくなる原因について、山出さんは秋の気温低下や寒暖差が好影響を与えていると推察する。
 山出さんは「もしも南国より品質が良いものができたとしたら、日本で一番になれるかも知れない」と、産地としての可能性を感じている。

 この記事は中日新聞経済部が運営する会員向けサイト「中日BIZナビ」で公開中の連載の一部(第1回と第2回を再編集)です。全文(全7回)を読むには、有料の会員登録が必要です。
【連載】気候変動「適応」と産地
 第1回 果樹の栽培適地は北へ 富有柿の今とこれから
 第2回 本州でも南国フルーツ? 熱帯性果実に見いだす可能性
 第3回 北アルプスの麓に広がる畑ワサビ 加工メーカーが担う役割
 第4回 伊勢湾のクロノリ「みえのあかり」次の一手は
 第5回 アユはどこへ 長良川で起こっている異変
 第6回 日本の主食を守る 存在感を増す、暑さに強い新品種
 第7回 宇宙から探る適地 ビッグデータが導く効率的農業


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