泉鏡花 やさしく「変身」 没後80年 現代語訳販売好調

2019年12月16日 16時00分
 幻想的な作風で知られる作家泉鏡花(一八七三~一九三九年)の没後八十周年を記念して、KADOKAWAが八月に出版した作品集「本当にさらさら読める!現代語訳版 泉鏡花」=写真=の売れ行きが好調だ。流麗な文体ながら難解さがネックとなっていたが、分かりやすさが新たな読者層の開拓につながった。担当者は「甘美で妖艶な世界に入門するきっかけになれば」と話している。 (蓮野亜耶)
 現代語訳版は旅の僧侶が怪奇な体験を語る代表作の「高野聖」や、異界の主である姫と鷹匠(たかじょう)の男との恋を描いた「天守物語」など七作を収録。会員制交流サイト(SNS)で「泉鏡花の美しい日本語を現代語にするとはなにごとか」と批判を浴びるなど賛否を交えて話題となり、初版は三千部だったが、発売一カ月で異例の重版となった。
 企画した同社学芸ノンフィクション編集部の工藤裕一編集委員は「高野聖」を読んで、独特の文体に挫折し、以降は鏡花作品を手に取ることはなかった。編集部内の“文学好き”に聞いても同様だった。ところが鏡花作品を現代語訳にした自費出版本を読んだところ「本当に面白くて。一気に数十冊ダウンロードしてしまった」。
 鏡花の作品は独自の美意識に支えられた文体が美しい。一方で、天守物語などの舞台で感動した人が、作品を手に取ったものの、難解な文体で読めずに挫折したという人が多い。

泉鏡花

 そこで「作品の面白さは折り紙付きなのに、文体に歯応えがありすぎて読者を選んでしまっている」と近代の文学作品ながら現代語に訳すことに決めた。泉鏡花記念館(金沢市)の秋山稔館長が監修し、原文と照らし合わせながらチェックした。
 一般的に三千部の発行では一部の書店にしか並ばず、長い時間をかけて売れることがほとんどだという。工藤さんは「宣伝はしておらず、ほぼSNSの力で売れた。本当に珍しい」と驚く。SNSでは「原文と照らし合わせて鏡花の言葉の美しい響きと意味を二度も味わえる」と評価する声もあるといい「本書から原文に進む熱いファンが増えたら」と期待を寄せている。
 作品集は四六判、三百二十ページ、定価千四百三十円。

関連キーワード


おすすめ情報