女性取締役ゼロに「反対」の動き 国内の機関投資家「多様性は企業価値向上につながる」

2022年6月21日 06時00分
 上場企業の株主総会が29日にピークを迎える中、国内外の機関投資家が、女性取締役の1人もいない企業に対し、取締役選任案に反対票を投じることを検討する動きが広がっている。役員の多様性が企業の価値を高めるとの考え方からだ。日本は全上場企業の女性役員比率が主要国と比べて依然低く、遅れる会社は対応が求められている。(坂田奈央)
 三井住友トラスト・アセットマネジメントは今年1月から、女性取締役がゼロで企業側とエンゲージメント(対話)を実施したにもかかわらず状況に改善がみられない場合などに、在任期間3年以上の取締役全員の選任に反対を検討するようにした。1~3月の株主総会では、2社の取締役選任議案に反対した。
 ニッセイアセットマネジメントは来年6月から、プライム市場上場企業かつ東証株価指数(TOPIX)100の構成企業を対象に、女性取締役ゼロなら代表取締役の選任に反対する。同社の井口譲二氏は「ダイバーシティは、取締役会を活性化し、実効性を高め、企業価値向上につながる」と話す。
 機関投資家の行動に影響を与えるのが「議決権行使助言会社」の存在だ。昨年12月、最大手の米ISSが日本の上場企業向け議決権行使の助言方針を改定。女性取締役がいない会社の経営トップの取締役選任議案への反対を推奨した。
 大和総研の鈴木裕氏は「ISSが動きだせば国内の機関投資家も同じ方向に動く。女性役員がいない企業は、業績が良くても反対票が増える可能性が高まっている。『うちは関係ない』と言い続けるのは難しい状況だ」と指摘する。
 内閣府によると、昨年7月末時点で、旧東証1部上場の約3分の1(732社)で女性役員はゼロ。女性役員数は約3000人で2012年から5倍となったが、全役員数の7.5%だ。主要国との比較では、日本の女性役員の比率は12.6%と後れを取っている。

◆政府も後押し…「変革」を急ぐ企業

 女性取締役がいない企業に機関投資家が「ノー」を突き付ける可能性が高まりつつある。多様性のある経営が企業価値の向上につながるとして、旧来型の日本企業は変革を求められそうだ。
 東証プライム上場で産業ガスを扱う東邦アセチレン(宮城)は、今月末の株主総会で、1955年の設立以来初の女性が社外取締役として就任する見込みだ。ANAホールディングス傘下で地域創生などを手がけるANAあきんど(東京)社長の菅谷とも子氏を迎え、経営への多様な意見の反映を目指すという。
 企業が機関投資家の動きに加えて影響を受けているのが、上場企業の経営指針といえる「コーポレートガバナンス・コード」だ。金融庁と東証が昨年改訂し、取締役会は女性を含む多様な人材で構成すべきだという原則が明示された。多様性の確保に向けた人材の育成方針や環境整備の実施状況の公表も求めている。
 機関投資家の要請対象も広がる見込みだ。大和アセットマネジメントは、21年3月に東証株価指数(TOPIX)100の構成企業に対して1人以上の女性役員選任を求める基準を設定。今月からは対象をTOPIX500の企業に広げた。担当者は「女性役員の社内登用に向けた取り組みとともに、社外から招くために積極的に活動する企業も増えている」と話す。
 企業に女性の幹部人材を仲介する「OnBoard(オンボード)」(東京)を21年に創業した越直美弁護士は「女性役員のニーズは強いと感じる。女性役員比率が低い業界でも、危機感を持って積極的に探そうとしている」と話す。
 大津市長を務めた越さんは「終身雇用、年功序列の組織はなかなか変化が起きない。多様な人が意思決定に加わることがイノベーションにつながる」と話す。
 越さんと共同で最高経営責任者(CEO)を務める松澤香弁護士は、11年に国会が設置した東京電力福島原子力発電所事故調査委員会での調査経験が創業に結びついた。松澤さんは「個々人は優秀でも意思決定主体の多様性がないことで、異論が出ず、企業がとってはいけないリスクを取り得る怖さを感じた」とし、「多様性ある取締役会が企業の適切なリスクテイクの主軸になる」と指摘する。
 内閣府のホームページには、昨年7月末時点の旧東証1部市場上場企業のうち女性役員がいない約730の社名が並ぶ。企業が対応できるかが課題になる。

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