「価値ある医療」提唱・國頭英夫さんに聞く<上> 国民皆保険 守るために

2022年6月23日 07時15分

◆重さ増す負担 破綻回避へコスト意識を

 「日本の医療は氷山に向かって突き進むタイタニック号」。臨床の現場から国民皆保険の存続の危機を訴えてきた國頭(くにとう)英夫医師(60)が昨秋、医療費の増大を抑える「価値ある医療」の開発へ動きだした。「いま何もしなければ次世代の若者に顔向けできない」。異端視されながら改革に挑む思いを聞いた。 (杉谷剛)
 −日本の医療保険制度は今後も持続可能と考えますか。
 普通に考えて保険料を払う人が少なくなって医療費を使う人が多くなったら、財源は足らなくなる。国民皆保険なのだから本来は保険料で賄われるはずだけど、すでに財源が足らなくて税金がじゃぶじゃぶ入っているからその意味で、もはや保険ではなく、すでに破綻しているとも言える。
 −保険料も年々上がっている。
 消費税を上げるときは大騒ぎになるけど、保険料は法律を改正しなくてもいいから上げやすく、どんどん上がっている。それでも足りずに毎年赤字国債を発行して借金で埋め、その借金を結局は将来世代が負うことになる。インフレにならない限り国債を発行してもよいと言う人がいるが、すでに円安で物価は相当上がっている。われわれはエネルギーも食糧も海外から買わなければならないのに。足りなければ借金して増やせばいいなんて通貨を、だれがいつまで信用してくれるのか。
 《二〇一九年度の国民医療費は四十四兆三千九百億円。財源はおよそ保険料五割、税金四割、窓口負担一割。健康保険組合の一人当たりの年間の保険料は約五十万二千円で、十年間で十二万五千円余り増加。隠れ負担増と言われる》
 −一六年に財務省の審議会で「医療は費用対効果をもっと考えるべきだ。このままでは医療保険制度は破滅する」と発言して大きな波紋を広げました。
 がんの治療薬のオプジーボなどの高額薬の保険適用が次々と認められていた。オプジーボは当時、体重六〇キロだと一回の投与で百三十三万円、年間三千五百万円かかる。薬が効く人も効かない人も、いつまでやっていいのかも不明瞭だった。オプジーボの薬価はその後下がったが、最近のがん治療は薬代だけでも年間一千万円を超えるなんて普通になった。
 アメリカは個人で民間の保険に入るので、医療費の急騰で保険料が跳ね上がり、中産階級では保険料と医療費の自己負担分で、破産したり治療打ち切りになったりする。その点、日本には国民皆保険と(高額医療は保険でカバーされる)高額療養費制度があるので、まだ享受できる。
 欧州の医師から「そんなうまい話があるはずない」と笑われ、韓国の医師からも「信じられない」と言われた。そんなありがたい日本の医療システムは、いつまで続くのか。医療の高度化と高齢化で、医療費はどんどん増え、現役世代にますます重くのしかかる。大企業や業界の健保組合の解散も後を絶たない。
 《団塊の世代がすべて後期高齢者となる二〇二五年、七十五歳以上は二千百八十万人に増えて国民の五人に一人となり、社会保障費が増大するため、「二〇二五年問題」といわれる。後期高齢者の医療財源は患者の窓口負担を除き、税金が五割、現役世代からの支援金(健保組合や国民健康保険などの保険料)が約四割、高齢者の保険料約一割となっている》
 −医療にコストの概念を持ち込むべきだとの主張に、医療界は冷ややかでしたね。
 十年くらい前から言ってきたけど、最初は無視された。その後も「医者が金の話をするのは卑しい。それは政治の考えることだ」とか「どうせ保険制度はつぶれるから言っても無駄だ」とか「つぶれたら初めてみんな分かるよ」という人もいた。病院は収益を、製薬企業は売り上げを減らしたくない。患者も出費を気にせずいい医療を受けたい。どれもある意味当然で、そこに医療費を減らそうというインセンティブは働かない。
 −国は制度維持のために保険料のアップだけでなく、窓口の負担増や増税をするかもしれません。
 今のまま制度を維持するには負担増は避けられない。制度がつぶれたら、次世代に借金だけ残って、今まで私たちが当たり前のように受けてきた医療は高嶺(たかね)の花になる。どうしたらそんな暗黒の未来を回避できるかを考えるべきだ。われわれは無駄を省いて医療の価値を高め、なんとか「最低限」のレベルを死守しなければならない。二宮尊徳は「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」と言った。
  (続きは6月30日に掲載)

<くにとう・ひでお> 1961年鳥取県生まれ。東京大医学部卒。90年から肺がんの診療に専門的に携わる。国立がんセンター中央病院、三井記念病院などを経て2014年から日赤医療センター化学療法科部長。里見清一のペンネームで「医学の勝利が国家を滅ぼす」「医師の一分」、また「死にゆく患者(ひと)と、どう話すか」など著書多数。SATOMI臨床研究プロジェクトのホームページはこちら


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