否認を続けたら、がんでも保釈されず…典型的な「人質司法」では? インサイダー取引で特捜部起訴の社長

2022年6月23日 12時00分

西野被告が勾留されている東京拘置所=東京都葛飾区で

 インサイダー取引をしたとして東京地検特捜部に逮捕、起訴された医療ベンチャー企業の社長が、否認を続けて前立腺がんで体調不良を訴えているにもかかわらず、東京拘置所に勾留され続けている。弁護人は「容疑を認めなければ保釈しないという人質司法の典型だ」と問題視する。一体、何が起きているのか。(中山岳)
 「治療を受ける権利を繰り返し訴えているにもかかわらず、無視されている。検察や裁判所は、疑わしきは被告人の利益とする無罪推定の原則をないがしろにしている」
 勾留されている西野高秀被告(55)の弁護人を務める秋田一恵弁護士は、語気をそう強める。

「西野高秀氏が保釈されない問題は人質司法そのものだ」と語る秋田一恵弁護士=東京都内で

 西野氏は5月17日、金融商品取引法違反容疑で逮捕され、6月6日に同罪で起訴された。起訴状などによると、2020年7月、知人でシステム開発会社「ソフトブレーン」(東京)元従業員の宮沢一広被告(金商法違反などの罪で在宅起訴)から、同社に関する株式公開買い付け(TOB)の情報を事前に知り、同社株2万株を約670万円で購入したとされる。
 西野氏は昨秋以降、証券取引等監視委員会や特捜部から任意の取り調べを受け、「インサイダー情報は聞いていない」と一貫して否認。一方、今年4月、進行型の前立腺がんの診断を受けた。5月18日に転移がないかどうかを調べる検査を予定していたが、その前日に逮捕された。
 逮捕後、秋田氏は勾留取り消しや執行停止を起訴前までに計3回裁判所に申し立てたが、いずれも「罪証隠滅の恐れ」を理由に却下された。起訴後の6月7日、西野氏はようやく検査を受けられたものの、十分な治療を受けられないまま今も勾留されている。秋田氏は「特捜部は関係場所を強制捜査して資料も押収している。具体的な罪証隠滅の恐れはないはずだ。西野氏の命を危険にさらして逮捕を強行し、勾留を続けるのは人権侵害だ」と述べる。

◆「ヤメ検」にも自白を迫られ…

 問題はまだあると、秋田氏は言う。西野氏の弁護人は当初、特捜部の捜査経験もある「ヤメ検弁護士」だった。そのヤメ検弁護士は「担当の検事は特捜時代に自分が教えていた後輩。否認すれば逮捕される。供述を変えれば、執行猶予を5年から3年にしてやる」などと西野氏に持ちかけていたという。
 不信感を募らせた西野氏は逮捕直前にこの弁護人を解任し、秋田氏に代えた。「本人が否認しているにもかかわらずヤメ検弁護士が自白を促し、検察と『裏取引』で量刑を軽くさせたとして多額の弁護料を要求する。特捜事件ではこうした『マッチポンプ』のように多くの事件がつくられている」(秋田氏)
 東京地検はどう考えているのか。「こちら特報部」の取材に「個別事件の対応はお答えを差し控える。一般論として、当庁においては被疑者、被告人の健康状態も踏まえた上で法令に基づいて適切に対応している」とコメントするにとどまった。
 甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は「人質司法が疑われるような長期の勾留は、特に容疑者が否認や黙秘している事件で少なくない。自白の供述を獲得したいという偏重した捜査がいまだにまかり通っている」と指摘した。
 近年は、裁判所が証拠隠滅の現実的な危険性を考慮した上で勾留を判断するケースもあるが、徹底されているか疑問という。
 その上で、笹倉氏は「病気の人に治療を認めないならば人権問題と言わざるを得ない。身体を拘束しないことが原則であるべきで、百歩譲っても、一時的に勾留を執行停止するべきだ」と強調した。

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