神宮外苑再開発「事業者側の情報公開が足りない」 環境アセス専門家・千葉商科大学長の原科さんに聞く

2022年6月24日 06時00分
 明治神宮外苑地区の再開発計画を巡り、東京都の環境影響評価(アセスメント)の審議が異例の延長になった。日本の環境アセスメント研究の第一人者、原科幸彦千葉商科大学長は一連の審議を踏まえ、「事業者側の情報公開が不足している」と問題点を指摘する。(聞き手・森本智之)

 環境アセスメント 開発事業が環境にどう影響するか、事業者自身が事前に調べ保全策を講じる制度。東京都では、事業者がまとめた保全策などの妥当性を専門家が審議。結果を都へ答申し、これを踏まえ都知事は事業者に意見書を出す。神宮外苑の再開発では、当初4回の予定を延長した5月末の5回目の専門家の審議でも、情報提供不足を指摘する声が相次ぎ、結論が出せなかった。当初は6月上旬にも予定していた答申の提出は遅れている。事業は本年度内に始まる計画だが、アセスが終わらないと着工できない。

 —審議をどうみたか。
 「事業が、環境に与える影響を最小限にするようチェックするのがアセスの役割。審議の中で専門家の委員が指摘したように、判断のための情報が十分ではなかった。樹木は1回伐採すると、元に戻せない。切る判断が妥当かチェックしなければならないが、『その妥当性を判断するだけの情報がない』と訴えた。事業者の説明をうのみにせず、専門家としての責任を果たしていると思った」
 —委員からは情報開示が不十分との指摘も出たが。
 「最近になって都民から『計画を初めて知った』という声が出ること自体がおかしい。資料の公表や住民説明会の開催などの手続きは踏んでいても、その中身が大切。残念ながら実際にみんながモノを考えるプロセスとはなっていなかった。結果的には周知不足で、非常に大きな問題だ」
 —具体的に必要なのは。
 「環境への影響を低減するには、住民の計画づくりへの参加が必要だ。アセスでは専門家が科学的に分析する部分と、住民の判断が尊重される部分がある。景観や自然との触れ合いなど文化的価値にどのくらい影響があるかの評価は、人によって異なり、普段からその環境に親しんでいる住民の意見が重要になる」
 —どうすればいいか。
 「外苑は、国民みんながお金や樹木を寄付し、勤労奉仕でできた。当初から公共空間として造られ、100年近く維持されてきた歴史的な文化遺産だ。その公共空間が民間開発されることの疑問は誰もが持つ。公共性とは何か。大事にするなら、伐採に反対する人も含めてみんなの意見を十分反映させなければならない」
 「事業者の三井不動産や伊藤忠商事はウェブサイトなどでSDGs(持続可能な開発目標)への配慮をPRしているが、それに見合った行動を求めたい。ここは立ち止まって計画を見直してもらいたい」
 —この審議会後、小池百合子都知事は事業者に住民参画を進めるよう求めた。
 「東京都は都市計画の変更も承認しており、遅きに失したが、『きちんと情報を出しなさい』と事業者に要請するのは行政として正しい。ただし『参画』を求めるなら、現在の計画を見直した新たな計画づくりへの参加でなければならない」

明治神宮外苑地区再開発計画の環境アセスについて、「事業者側の情報公開が不足している」話す原科幸彦千葉商科大学長

 —環境アセスを経て事業が修正されることはあるか。
 「ある。専門家によるアセスの審議会が今後、どんな答申をするかが焦点で、審議会が計画の修正を求めた場合、小池知事はそれに応じた意見を出すだろう」
 「日本では従来、アセスが事業の妨げになるとの誤解があり、情報公開に消極的な場合も多く、事業の実施が前提で結論を合わせるだけの『アワセメント』だとの批判もされた。だが、二十数年前、名古屋市が藤前干潟を埋め立て、ごみ処分場にする計画では、市側が干潟の自然環境の価値を低く評価していると市民団体が科学的情報を提供し、環境庁長官(当時)が反対意見を表明したことで中止になった。その後、干潟はラムサール条約の登録湿地となり、国際的に価値が認められた。市民団体の主張は正しかったわけで、アセスが功を奏した例だ」

 はらしな・さちひこ 1946年静岡市生まれ。東京工大名誉教授。環境アセス分野における世界の基幹学会、国際影響評価学会(IAIA)の会長を日本人で初めて務めた。著書に「環境アセスメントとは何か」「都市・地域の持続可能性アセスメント」など。

 明治神宮外苑での樹木の伐採 事業者が1月に新宿区都市計画審議会に提出した資料によると、再開発エリアの樹木約1900本のうち約900本を伐採。新たに1000本近くを植え、合計樹木は1972本となる可能性がある。樹木の大半は外苑の創建時に植えられた木とみられ、文化的、歴史的価値の観点などから「新たに植えても代えは利かない」との批判が研究者などから起きた。文化財保存の専門家でつくる日本イコモス国内委員会は伐採本数を2本に減らす案を提言。計画反対のネット署名は8万人を超えた。

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