生き別れたカメルーン人の父とイタリアで再会 ピン芸人・武内剛さんの父捜し旅、映画化へ

2022年6月24日 13時00分

集まった資金でイタリアに渡り、父親と再開できた武内剛さん=17日、東京都渋谷区で(伊藤遼撮影)

 幼い時に生き別れたカメルーン人の父を捜していた「ぶらっくさむらい」の芸名で活動する武内ごうさん(41)=東京都杉並区=が先月、父が暮らすイタリアを訪問し、再会を果たした。一部始終を撮影した映像をドキュメンタリー映画化する計画で「多くの人の支えで父に会えた。報いるためにも良い作品にしたい」と話す。(小松田健一)

◆「ルーツ知りたい」思いにCFで134万円

 武内さんの父はイタリアの語学学校で学んでいたとき、日本人の信子さん(77)と出会う。しかし、2人は結婚せず信子さんは単身帰国し、武内さんを出産。名古屋市で証券外務員として働き、武内さんを育てた。

武内さんの父捜しを報じた昨年7月7日付本紙夕刊の記事

 父とは2歳の時、一度会っただけで記憶はない。米国での演劇修業を経てピン(単独)の「ハーフ芸人」として活動し、実績を積むうちに「自分のルーツを知りたい」という気持ちが募った。昨年6〜8月にクラウドファンディングで父捜しとその過程を映画化する資金を募り、目標の100万円を上回る134万円が寄せられた。

◆最終日にやっと…「41年で一番泣いた」

 5月16日、カメラマンと2人で、父が住むというミラノを目指した。手掛かりが乏しく、人口約140万人の大都市での人捜しは難航する。信子さんが認知症となり、父に関する話を十分に聞けなかったことも困難に拍車をかけた。
 まず、父から母への手紙に記されていた住所のアパートを訪ねたが、家主は交代していて「昔のことは分からない」と門前払いされた。探偵事務所には、生年月日も分からなければ調査できないと断られた。
 資金の関係で長期滞在はできず、焦った。現地のアフリカ人コミュニティーで聞き込みをしたところ、父とかつて共に仕事をしたという年配の男性に出会う。つてをたどってくれて父のメールアドレスが判明。先月27日、市内の公園で待ち合わせた。滞在日程ぎりぎりだった。
 約40年ぶりの再会に「うれしさや安堵あんど感だけではなく、自分に命を与えてくれてありがとうとか、生きていてくれてありがとうとか…。いろんな感情がごちゃ混ぜになった。41年間の人生で一番泣いた」

イタリア・ミラノで父親(左)と再会を果たした武内剛さん=本人提供(父親の希望で画像処理で顔を隠しています)

 父は67歳になっていた。公園内のカフェで親子水入らずの時間を過ごした。父は「お父さんと呼んでくれてありがとう」と、感無量の様子だった。

◆父からのメッセージに認知症の母が笑顔

 父は母と別れてから、得意な語学を生かして隣国スイスへ渡り、通訳の仕事をしていた。最近引退して今はミラノで家庭を築き、武内さんとは母親違いとなる弟と妹がいる…。武内さんにとって空白だった父の人生が埋まっていった。
 印象的だったのは、公園で10歳ぐらいの男児2人が取っ組み合いのけんかを始めたのを見るや、大声で「バスタ!」と止めたこと。イタリア語で「やめなさい」。「日本では他人の子どもをしかる姿を見なくなった。これが父親なんだなと。昭和ですよね」と振り返る。生真面目な性格は、以前に信子さんから聞いていた通りだった。
 撮影映像は今秋をめどに編集作業を終え、国内の映画祭への出品を目指す。ただ「シャイで目立つのを嫌う人で、今の家族に心配や迷惑をかけたくないという気持ちも強い。タレントではないから、そこは仕方ないと思います」と父の顔と名前は伏せた映像にする。
 帰国後、信子さんへ父からのビデオメッセージを見せたら「にこにこ笑っていた。何となく分かったのかな」。一緒に暮らせなかった家族3人が、顔をそろえた瞬間だった。

関連キーワード


おすすめ情報

主要ニュースの新着

記事一覧