<書評>『パンデミック監視社会』デイヴィッド・ライアン 著

2022年6月26日 07時00分

◆個人データ収益化に警鐘
[評]斎藤貴男(ジャーナリスト)

 わずか一カ月で新型コロナウイルス対策を“検証”したことにし、報告書モドキをでっち上げた有識者会議は、この大命題に向き合おうともしなかった。パンデミック監視社会。市民一人ひとりの行動が、感染拡大の予防を掲げて一体化した政府と、プラットフォーム企業に絶えず追跡される世の中をどう考えるのか。
 確かに日本では、さしたることもなかったように見えている。街中に張り巡らされた顔認証連動型監視カメラ網やキャッシュレス決済システム、上空を飛び交うドローンにまで見張られる中国あたりとは比べるべくもない。
 見識とは無関係だ。純然たる技術力不足と、東京五輪を控えて感染状況を小さく見せかけたく、ために実態を把握すること自体を忌避した、時の政権の都合だった。
 だから近未来を見据えて正しく恐れよう。「監視」問題の世界的権威の手になる本書は、今回のパンデミックは企業が個人のデータをかき集め、解析・予測して収益化するビジネスモデルと、これを利活用し得る国家権力の支配欲をいやが上にも肥大化させて、それがまた定着しつつあるのではないかと指摘した。
 とすれば当然、恣意(しい)的な運用がはびこり、既にある不平等がよりいっそう助長されかねない。中国は権威主義の国だから云々(うんぬん)の独善は無用。自称民主主義国とて同じ穴の狢(むじな)だ。著者はイスラエルやインド、さらには米国の実例も挙げて警鐘を乱打する。コロナ禍のただ中でデジタル庁を立ち上げた日本においてをや。
 IT信仰にも等しいテクノソリューショニズムは禁物である。カギを握るのは「データ正義」に尽きると、著者は叫んだ。人間を主体とする枠組みが重要なのだ、と。
 評者は正直、それがかなったとしても恐ろしい。取材で「ソサエティ5・0」の国策がうたう「人間中心の未来社会」の意味を尋ねた政治家や官僚たちがことごとく、それは「便利な社会」のことですよと微笑(ほほえ)んでいたから。
 正論の重みはそれでも失われることがない。操られ、金ヅルや道具にされるだけの人生にされ続けないために――。
(松本剛史(つよし)訳、ちくま新書・924円)
1948年、スコットランド生まれ。社会学者。著書『監視スタディーズ』など。

◆もう1冊

今岡仁著『顔認証の教科書 明日のビジネスを創る最先端AIの世界』(プレジデント社)。監視社会を推進する側の発想が分かる。

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