「子どもの命に関わる通学路、もっと予算を」安全対策進まぬ理由は? 八街児童5人死傷事故から1年

2022年6月26日 06時00分
 千葉県八街市で昨年6月、下校中の児童5人が飲酒運転のトラックにはねられ死傷した事故から28日で1年を迎える。全国の自治体は通学路の「危険箇所」を洗い出したものの、安全対策は思うように進んでいない。専門家は「通学路の危険排除は国の重要課題。周辺の幹線道路整備を含めて子どもらの命を守るべきだ」と指摘する。(加藤豊大、鈴木みのり)

八街児童5人死傷事故 2021年6月28日午後3時ごろ、千葉県八街市の市道で、飲酒運転の大型トラックが下校中の児童の列に突っ込み、8歳と7歳の男児2人が死亡。女児1人が一時意識不明の重体となり、男児2人が重傷を負った。自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪に問われた元運転手の梅沢洋元被告(61)に千葉地裁は今年3月、懲役14年の判決を言い渡し、確定した。

児童5人が死傷した事故の後、現場にはガードパイプやハンプが設置された。スクールバスが運行され、現在はこの道で通学する児童の姿はない=千葉県八街市で(一部画像処理)

 千葉県習志野市の住宅街の幅6メートルほどの市道。通学路として歩く児童の脇を、乗用車やトラックがすり抜けて行く。すぐ裏にある国道の渋滞を回避する抜け道として使われているためだ。市によると、八街の事故の後、地元住民がガードレール設置を要望した。だが、「民家の出入りをふさぐことになり難しい」(市担当者)。このため市は、路面に「速度落とせ」と表示して対応した。
 八街市の事故現場周辺では事故前の2008~11年、地元PTAが市にガードレール整備を繰り返し要望したが、市は「幅員が足りず、拡張には多額が必要」と対策を見送った。道路片側にガードパイプ(防護柵)が設置されたのは事故が起きた後だ。拡幅せずに車道部分を狭めて設置し、道路を凸状に盛り上げて減速させる「ハンプ」も設けた。
 文部科学省と国土交通省、警察庁は事故後、小学校通学路の危険箇所の一斉点検を全国の自治体などに要請。計7万6404カ所がリストアップされ、場所に応じて必要な対策が打ち出された。

◆遅れるハード対策 ガードレールや歩道整備率は5割以下

 しかし、対策の中身を見ると、ハード面の遅れが目立つ。
 千葉県では3月末までに、危険とされた計4044カ所中、7割に当たる2725カ所で対策を終えた。ただし、その7割(約2000カ所)は、見守り活動や安全教育といったソフト面の対策。ガードレールやハンプ、歩道などハードの整備率は50%以下にとどまる。「土地の買収や関係部署との調整に時間がかかっている」と県担当者は説明する。
 ほかの自治体も同じ課題を抱える。埼玉県では5000以上の危険箇所をピックアップ。そのうち約1800カ所は「歩道の拡幅など、要望された対策の実現が現実的には難しい」などの理由で対策の対象箇所から外された。
 神奈川県と東京都の担当者はそれぞれ「対策の進展は国に報告しており、取材には答えられない」。文科省担当者は「全国の進展状況をまとめて近く発表する予定」としている。
 国交省は、一斉点検で必要とされたハード整備支援として自治体向けの補助制度を本年度から創設し、500億円を計上した。もっとも補助率の上限は、以前から各自治体が通学路整備に利用してきた社会資本整備総合交付金と同じ55%。千葉県のある市の担当者は「新制度に明確なメリットはない。財政に余裕がない中、補助率がもっと高ければ良いのだが」と嘆く。
 通学路の安全確保に詳しい埼玉大大学院の久保田尚教授(交通計画学)は新制度について「用地を確保できている場合は利用できるが、買収の合意形成には何十年もかかる場合がある」と指摘。その上で「通学路の交通量を減らすために周辺の幹線道路を広げる事業などにも臨機応変に活用できるよう別の補助制度が必要だ。通学路は、子どもらの安全や命に直接関わる。国はもう1桁も2桁も多く予算をかけるべきだ」と提案する。

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