「誰でも100万円もらえる」の誘い文句で…5カ月で約1780件の代行申請 持続化給付金詐取事件

2022年6月27日 06時00分
 国の新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして、警視庁に詐欺容疑で逮捕された職業不詳谷口光弘容疑者(47)のグループは、1日に60件以上、給付金を不正に申請することがあったという。わずか5カ月間に約10億円を不正受給したとされる谷口容疑者ら。「誰でももらえる」との誘い文句が口コミで広がり、申請者の数は爆発的に増えていった。(井上真典)

谷口容疑者のグループで中心的な役割を果たしたとされる男性=東京都内で

◆「先生」と頼りにされる

 約2年前、飲食店で開かれた持続化給付金セミナー。給付金を受給できないか探る会社員らを前に、ファイナンシャルプランナーの証明カードを首からぶら下げた谷口容疑者がまくし立てた。
 「自分は個人事業主ではないって思いますよね。でも、自分の意思次第で何とでもなるんです。胸を張ってください。申請は僕の方でしておきます。誰でも100万円もらえるんです」
 谷口容疑者はセミナーに真っさらな確定申告書を持参。ここに名前と住所さえ記入すれば申請は代行するとし、受給した100万円から20万円ほどを手数料としていただくと説明したという。
 「谷口さんは金融の知識が豊富で口がうまい。給付金をもらいたい人たちが、『先生』と頼りにしていた」と振り返るのは、中心的メンバーとされる男性だ。

◆人が人を呼び過去最大10億円規模

 過去最大規模の不正受給事件。男性が谷口容疑者から「コロナで困っている人がいたら紹介してほしい」と声をかけられたのは、申請の受け付けが始まる前月の2020年4月だった。
 男性は知人数人を紹介。知人が別の友人らを紹介するなど「人が人を呼んだ」(男性)ことで、申請者の数は一気に膨れ上がった。
 結果、グループによる代行申請は、20年5〜9月の5カ月間で約1780件に。個人事業主940件前後、中小企業二十数件の申請が通り、不正受給額は約10億円に上った。
 巨額の不正受給を可能にしたのは組織力だ。元妻の梨恵(45)、長男大祈だいき(22)の両容疑者は中小企業庁に電子申請する担当で、当時19歳だった次男(21)は確定申告書に数字を書き込む役回りを担った。
 勧誘役も、谷口容疑者に近い主要メンバー十数人から枝分かれする形で、各地に約15チームが点在。給付金の受給に成功すれば、谷口容疑者に渡る分以外に、自分たちも手数料を得ていたという。あるメンバーは「チームの誰にも、そんなに悪いことだという認識はなかった」と話した。
 雲行きが怪しくなったのは20年夏ごろ。不正受給者の摘発が報じられ始め、男性には申請者から「いけないことだったのでは」との相談が寄せられるようになった。だが、谷口容疑者に問い合わせても「大丈夫」と言われるだけ。同年10月、インドネシアに出国した後は連絡が途絶えた。

◆警察幹部「審査がザル」

 今も相次ぐ不正受給者の逮捕。中小企業庁の担当者は「制度は迅速な給付を優先した。第三者に提出してもらう書類もなく、あくまで自己申告。申請内容が虚偽であっても見抜くのは難しかった」と話す。今年1月からの事業復活支援金では、金融機関に事業実態の確認を求めるなど審査を厳格化した。
 ある警察幹部は冷ややかに語る。「あまりにも審査がザルだった。制度がつくり出した犯罪だよ」

持続化給付金 新型コロナの影響で前年同月比50%以上の収入減があった個人事業主に100万円、中小企業に200万円が支給される制度。確定申告書の控えや売上台帳などを添付して電子申請する。申請期間は2020年5月〜21年2月で、約5兆5000億円が支給された。全国で不正受給が相次ぎ、警察庁によると、今年5月末時点で計3770人が摘発されている。

関連キーワード


おすすめ情報