パート女性4人は「非常口から3歩」で亡くなっていた…三幸製菓、非正規夜勤に避難訓練せず 「安全格差」是正に厚労省腰重く

2022年6月27日 06時00分
 夜勤のパート女性清掃員4人を含む6人が死亡した三幸製菓(新潟市)の2月の工場火災で、パートの4人は防火扉が下りて使えなくなった通用口の前で倒れているのが見つかった。非常口のわずか1.5メートル手前だった。会社は夜勤の非正規社員に避難訓練を実施しておらず、4人は避難経路を知らなかった可能性が高い。正規と非正規の安全格差が浮き彫りになった。(編集委員・池尾伸一)

◆夜勤の非正規社員に避難訓練行わず

 三幸製菓工場火災 2月11日午後11時40分ごろ、せんべい「雪の宿」などを製造する荒川工場F棟から出火しているのを社員が発見、鉄骨2階建ての建物約9500平方メートルを全焼した。F棟には当時26人がいたが、包装室にいた女性4人とボイラー室近くの通路、乾燥室にいた男性正社員2人の計6人が死亡。

 火災が起きた荒川工場(新潟県村上市)の解体着手を翌日に控えた19日、慰霊式が営まれ、亡くなった伊藤美代子さん=当時(68)=の長男(44)は初めて遺体発見現場の包装室周辺に入った。母が倒れていた場所と、助かった12人(正社員4人、非正規清掃員8人)が脱出した非常口の近さを実感し「避難経路さえ教えておいてくれれば」と悔しそうに話した。
 会社側が設置した事故調査委員会の報告書によると、68~73歳の4人が亡くなっていたのは、火災を感知して自動的に防火扉が下りた包装室の出入り口前。左横の非常口との距離は「歩幅で3歩(約1.5メートル)」(同社)だった。伊藤さんの長男は「いつものドアが開かず『閉じ込められた』とパニックに陥ったろう」と唇をかんだ。
 今回の火事を受け、厚生労働省新潟労働局の要請で新潟県内の米菓会社14社・計34工場が行った調査では、夜勤やパートが避難訓練の対象外だった工場が3割あった。非正規社員の安全教育に不備がある企業は全国でも一定数あるとみられるが、厚労省は夜勤者を含む避難訓練の実施を求める通達にとどまり、実態を把握するための全国調査の予定もない。
 労災に詳しい笠置裕亮弁護士は「非正規や夜勤の人も避難訓練の対象に含めるよう、労働安全衛生法や消防法など、法律や省令を改正すべきだ」と強調する。
 三幸製菓は27日、火災を起こしたのとは別の県内の2工場で4カ月ぶりに生産を再開する。
 

◆避難経路周知しなかった責任認める経営トップ

非正規社員の比率が労働者全体の4割に高まる中、政府は「人生100年時代」を掲げ高齢者に労働継続を促す。だが、全ての働き手の命を守るルールが整備されているとはいえない。
 亡くなった4人は午後9時~翌日午前2時が勤務時間帯だった。菓子の包装などを行う包装室(縦約30メートル、横約50メートル)に設置されたベルトコンベヤーなどの掃除が仕事で、勤務経験は全員が10年超。室内の状況は知っていたはずだが、逃げられなかった。
 事故時、包装室には避難訓練の経験がある正社員4人、経験がない人を含むパート清掃員12人の計16人がいた。亡くなった4人を除くパート8人の年齢や性別は非公表で16人が室内のどこにいたかも会社側は「把握していない」。
 なぜ非正規清掃員のうち8人が助かり、4人が亡くなったかは不明だが、会社側の事故調査委員会の報告書は、少なくとも亡くなった4人が避難経路を知っていれば、脱出できた可能性が高まったことを示していた。
 三幸製菓の佐藤元保最高経営責任者も5月末の記者会見で「避難訓練は昼間だけの実施。夜勤の人は非常口を知らなかった可能性がある」と説明し、「避難経路を周知しなかった責任は重い」と自ら語った。

◆働き手全員の命を守る対策が必要

 約1300社が回答した2011年の厚生労働省のアンケートでは、約2割の企業が、非正規社員に「火災時の避難マニュアルを知らせていない」と答えた。今も緊急時の避難経路などを知らずに夜間や非正規で働く人は多いとみられるが、このほかに目立った調査はなく実態は不透明だ。
 消防法は工場や企業は最低年1回の避難訓練をするよう規定。労働安全衛生法も労働者への安全教育を義務付ける。ただ、いずれも訓練や教育の具体的方法は企業の判断に委ねており、パートを対象外にしても明確な法律違反にならない。
 法的義務づけが緩い中で、笠置裕亮弁護士は「非正規社員を避難訓練に参加させるにしても時給が発生する。それなら訓練を行わず働いてもらった方がよいという安易な考え方をする企業が多いのではないか」という。
 定期健康診断も同様だ。労働安全衛生法は企業に年に最低1回の実施を義務付けるが、パートに関しては、正社員の所定労働時間の75%以上働く人に限っての義務付けにとどまる。
 雇用に詳しい青龍美和子弁護士は「非正規や高齢者ほど、深夜や早朝など厳しい環境で働いている人の比率が高い実態も踏まえ、働き手全員の命を守る対策が必要だ」と指摘する。
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