<トヨザキが読む!豊﨑由美>シルヴィア・モレノ=ガルシア『メキシカン・ゴシック』 邪悪な一家のおぞましい秘密

2022年6月27日 07時30分

早川書房・3300円

 子供の頃からキノコが大好きです。胞子がみっちりついた笠(かさ)の裏側の拡大図に見入り、菌糸をひっそりと遠くへ伸ばしていく、隠微で淫靡(いんび)な生態にうっとり。わたしの本棚にはキノコの図鑑や書物が並ぶコーナーが設けられているほどです。そこに新たに参入してきたのが、シルヴィア・モレノ=ガルシアの『メキシカン・ゴシック』。
 一九五〇年、首都メキシコシティで女子大に通いながら青春を謳歌(おうか)しているノエミのもとに、ヴァージル・ドイルと一年前に結婚したいとこのカタリーナから不可解な手紙が届きます。乱れた筆致で綴(つづ)られている、夫が毒を呑(の)ませようとする、邪悪な奴(やつ)らがささやきかけてくるといった異様な心境を心配したノエミは、彼女の様子を確かめにいくことになるんです。
 向かったのは廃鉱山の町。その頂にそびえ、地元民から<山頂御殿>と呼ばれているドイル家の、豪奢(ごうしゃ)ではあるものの荒廃が目立つヴィクトリア朝様式の古い屋敷がこの物語の舞台です。美しい容貌の下から邪悪さをのぞかせるヴァージル。凄(すさ)まじい老醜をさらしながらも、一族を圧倒的な力で支配しているヴァージルの父親ハワード。その姪(めい)でノエミに監視の目を光らせているフローレンスと、彼女の息子でドイル家の中で唯一ノエミの味方になるフランシス。
 幽霊や超常現象など信じない知的で明朗快活なノエミは、こうしたワケありの気配を濃厚にまとった人々に囲まれながら、奇っ怪な体験をすることになるんです。墓地で感じる何かの気配。動く壁紙。ノエミが見る悪夢の数々。夢の中で「目を開けて」と語りかけてくる女。ハワードの長女ルースが結婚式の一週間前に起こした銃の乱射事件と自殺をめぐる暗い過去。かつて鉱山町を襲った伝染病。
 で! 物語が三分の二くらい進んだあたりで明らかになるドイル家のおぞましい秘密、そこにキノコが大きく関わってくるんです。たくさんの菌類小説を読んできましたが、驚愕(きょうがく)トップ3に入るほどの独特なキノコの用い方。トヨザキ感服つかまつり候の巻なのでありました。 (ライター) =おわり

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