<考える広場>若者が変える日韓関係 五味洋治・論説委員が聞く

2022年6月28日 07時28分
 韓国で尹錫悦(ユンソンニョル)新政権が発足した。ウクライナや北朝鮮情勢の変化や米国の仲介もあり、長く冷却化していた日韓関係は改善に向けて動き出す気配を見せている。日本では若者を中心に、韓国文化への関心が高まっており、日韓関係の構造を変えつつある。日韓の若者に詳しい名古屋外国語大の福島みのり准教授に聞いた。

<大統領選と若者> 3月の韓国大統領選では現在、20代、30代の若者である「MZ世代」の票の行方に注目が集まった。若者は受験や就職競争に加え、不動産の高騰などの厳しい環境に置かれており、昨年の合計特殊出生率は過去最低の0.81を記録するなど少子化に拍車がかかっている。大統領に当選した尹氏は、兵役義務のある若い男性層向けの政策を打ち出し、若い女性層から反発が起きた。

◆歴史も学んで交流を 名古屋外国語大准教授・福島みのりさん 

 五味 第四次韓流ブームとも言われています。
 福島 裾野が広がっていますね。最初の韓流ブームは、中高年の女性が中心でした。大ヒットしたドラマ「冬のソナタ」はその象徴です。ドラマから「K−POP」に移行し、低年齢化しています。「愛の不時着」をはじめとした新しい韓国ドラマもヒットし、幅広い年齢層の人にアピールしています。
 私は大学で、韓国社会に関する講義を担当しています。四、五年前まで男子学生は歴史問題をはじめ韓国に批判的でしたが、最近は、K−POPアイドルのヘアスタイルをまねする学生もいます。韓国へのダンス留学や、現地で就職したいという学生も出てきました。昔は米国が「憧れの地」でしたが、今は韓国がそうなっています。
 五味 韓国の小説やエッセーも熱心に読まれています。
 福島 二〇一六年に出版され、日韓でベストセラーとなった『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳)は、授業でグループディスカッションをしたことがあります。女子学生が、モヤモヤしていた感情が言葉になっている、と反応しますね。
 エッセーも人気です。日本の作家が書いたものは「あなたは、あなたのままでいい」など精神面でのアプローチが多くみられます。それはそれで癒やされますが、韓国のエッセーは社会の矛盾も書かれています。
 例えば、非正規で働き、給与も低い。でもそれは、あなたの責任ではなく、非正規雇用を増やしている社会構造の問題なんだと切り込む。K−POPにも、同じようなメッセージが込められています。
 社会問題をリアルに扱っているので、それが日本でも共感を呼んでいるのでしょう。日本では、文学や音楽などに社会問題を織り込むと「政治的だ」と批判される傾向がありますが、韓国の大衆文化は、社会とのつながりの中に存在しています。
 五味 三月に行われた韓国大統領選ではジェンダー対立が話題となりました。日本ではあまり見られない現象です。
 福島 徴兵制の問題が大きいと思います。男性だけに課されてきましたが、若者は男女平等の教育を受けてきたので、なぜ男性だけが軍隊に行かなければいけないのかという疑問を持っています。義務だけあって権利がないという不満なのです。
 文在寅(ムンジェイン)前政権は、女性活躍を推進する政策を相次いで打ち出しました。この影響から、若い男性の間で自分たちの立場を理解していないと居心地の悪さを感じていた部分もありました。しかし、世界経済フォーラムが公表したジェンダーギャップ指数を見ると、韓国は百二位で、日本は百二十位。依然、女性の地位は日韓ともに低く、韓国よりも日本はさらに低いのです。
 五味 韓国の若者は学歴社会や就職難の中で苦しんでいるとの指摘もあります。
 福島 極端に取り上げられている気がします。韓国は軍事政権から民主化を勝ち取った経験があるので、問題提起型の社会になっています。
 自分たちの社会の問題をきちんと分かっていて、それに対して声を上げています。それが「生きづらさ」という形で、いい意味で表面化しているのです。
 日本にも同じ問題があるのに、なかなか表に出ません。また、若者論といえば大人が若者の現状を分析したものが大半で、生の若者の声があまり反映されていないのではないかと思います。
 また、私は若者から「日本に生まれてよかった」という発言をよく聞きますが、違和感を覚えます。他国のある一面だけを見て安易な発言をするのではなく、まずは自分の国の現状をきちんと認識することが必要だと思います。
 五味 韓国の若者の対日感情はどうですか。
 福島 世代によって異なります。社会の中心に位置づけられ既得権益層となった586世代(一九八〇年代に民主化闘争に関わった六〇年代生まれ世代。現在は五十代なので586世代と呼ばれる)は、日本に対するコンプレックスを持つ半面、民主化運動を成し遂げた自信があるため、日本を乗り越えようとする意識が強いとされます。
 一方、若い世代は普遍的な価値観を内面化しています。日韓で問題となっている元徴用工や慰安婦については、日韓の問題というよりは「人権」という視点から声を上げています。日本や日本人そのものが嫌いなわけではないのです。
 歴史の授業で、元慰安婦の女性たちの日常を記録したドキュメンタリーを見せることがあります。彼女たちの証言内容を問題視する声もありますが、教育を受けられず、文字を持たずに生きた女性たちにとって「証言」そのものが歴史の一部であり、彼女たちの人生であったと伝えています。日韓の歴史を「人権」や「女性の歴史」という視点から教えると学生も想像力が広がって、理解してくれます。
 五味 若者が実際に交流することの大切さを感じますか。
 福島 そうですね。直接話して一緒に何かを分かち合うことが非常に大切です。私はコロナ禍以降、日韓学生のオンライン交流を支援しています。自由に行き来できない状況ですが、韓国の学生がスマホで釜山の公園を撮影して送ってくれたと日本の学生がとても感動して、私に見せてくれました。
 「もう少し落ち着いたら会いに行きたい」と日本の学生は話していました。交流することの大切さを感じました。
 五味 若者や文化交流だけでは日韓関係は動かない、という悲観的な意見もあります。
 福島 確かにそういう意見も聞きます。ですが、日韓の間には多様な交流が存在します。K−POPのみに夢中になっていた若者が、韓国に友達ができたことで韓国の社会や歴史に関心を持つということもあります。
 日本が朝鮮半島を植民地統治した時代について、若者の一部には「自分たちには責任がない」「自分たちは大衆文化を通じて、良い関係を築ける」という意見も多い。若い世代が歴史とどう向き合うべきか、悩ましいところです。
 五味 日韓の若者は歴史的な知識のギャップが大きく、理解し合えない面があります。
 福島 それは感じます。その背景として、日本では近現代の歴史を詳しく学んでいないという問題もあります。その点で、歴史は「古代」からではなく「現代」から教えるのも一つの方法です。
 歴史は単なる過去の出来事ではなく、現在の視点から過去をどう捉えるのかという点が重要なのではないでしょうか。

<ふくしま・みのり> 1973年生まれ。神奈川県出身。韓国の延世大大学院社会学科博士課程修了。早稲田大非常勤講師や常葉大外国語学部准教授などを経て、2022年4月から現職。専門は世代やジェンダーにおける日韓比較。共著に『現代韓国を知るための60章』(明石書店)。


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