<コラム 筆洗>自分が音楽を担当した映画をちゃんと映画館まで見に行き、観客…

2022年6月29日 07時06分
 自分が音楽を担当した映画をちゃんと映画館まで見に行き、観客の入りや反応を確かめていたそうだ。映写室にもたびたび飛び込んだ。文句を言うためである。「音量を上げてほしい!」▼一九五〇年代後半の話らしい。大きな音を出すとスピーカーが早く傷むからと映画館の中には音を絞って上映するところもあったらしい。わが子のような音楽。それが聞こえないことがその人は許せなかった。「人造人間キカイダー」「マジンガーZ」など数多くのアニメ、特撮番組の音楽を手掛けた作曲家の渡辺宙明さんが亡くなった。九十六歳▼映画「スーパージャイアンツ/鋼鉄の巨人」(一九五七年)から最近まで放映された「機界戦隊ゼンカイジャー」まで約六十五年。長きにわたって子どもの胸を高鳴らせる音を届け続けた▼「忍者部隊月光」を子どもの時代に見た人は現在七十歳前後か。「キカイダー」なら六十代。その宙明サウンドを「ゼンカイジャー」で今の幼稚園児も楽しんでいる。そんな作曲家は少なかろう▼時代の半歩先を心掛けていたそうだ。一歩先では行き過ぎで理解されない。独り善がりを嫌い、聞き手を第一に考えた音づくりがその作曲家自身をもヒーローにした▼戦禍の中で青春時代を過ごした。力強い音楽が持ち味だが、軍歌調は作らないと書いていた。「泥くさいから」。理由はそれだけではないだろう。

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