震災と原発もテーマに「東北画」深化 地域ならではの美術追求14年 7月3日まで埼玉・東松山で展覧会

2022年6月29日 12時02分

「妖怪絵図 陽/陰」(2012年)(左)などの作品を展示した会場=いずれも埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館で

 日本画ならぬ「東北画」の創造を試みるプロジェクトがある。東北芸術工科大(山形市)の教員が「東北という場所で生まれる美術を考えよう」と学生と始めた課外活動で、今年で14年目を迎えた。スタートして間もなく東日本大震災と福島の原発事故が発生し、さらにテーマが深まった。そんな東北画の作品を一堂に集めて紹介する展覧会が7月3日まで、原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)で開かれている。(出田阿生)
 「東北画は可能か?」をテーマに2009年、プロジェクトを始めたのは同大日本画コース教授の三瀬夏之介さんと、洋画コース准教授(当時)の鴻崎正武さん。「日本という大きなくくりではなく、今住んでいる東北という地域ならではの美術の可能性を探りたい」と考えたのがきっかけという。

「東北画は可能か?」プロジェクトを発案した三瀬夏之介さん(中)と鴻崎正武さん(右)

 代表作「方舟はこぶね計画」(11年・共同制作)は、旧約聖書の「ノアの箱舟」を思わせる幅4メートル近い大作だ。地面がめりめりと方舟の形に隆起している。その下には大波が白いしぶきを上げ、真っ赤な炎や原発の建屋も見える。方舟の上には荘厳な山々をはじめとした東北の豊かな自然が、外側には原発や無個性な大型商業施設が描かれる。三瀬さんは「未来に持っていきたいものを方舟の上に、過去に置いていくものを外に描いた」と解説する。

「方舟計画」(2011年)

 教員と8人の学生で取材や議論をして絵の原案がまとまった翌日、東日本大震災が起きた。制作は一時中断したが、11年4月下旬の大学再開とともに再び取りかかった。津波に見える部分を描いたのは「宮城県女川町で祖父母を津波で亡くした学生だった」(三瀬さん)。余震の揺れの中、全員が無我夢中で描いた絵は、わずか3週間で完成。同年5月には東京で展示され、その後に全国を巡回した。
 「妖怪絵図」(12年・共同制作)は「原発は人間が生み出した鬼っ子である」という福島県立美術館の学芸員の言葉をきっかけに生まれた作品。震災や原発の要素が織り込まれていても遊び心やユーモアが漂い、三瀬さんは「原発をテーマに描くことに福島出身の学生から反発も起き、東北の妖怪大集合のような図になった」と振り返る。
 会場には共同制作の13点のほか、学生や卒業生らが個人で小さな画布に描いた152点も展示。がれきを囲むように咲き始めた桜を描いた学生は「報道される災害の大きさの前に、絵はほんとの絵空事でしかなかった」と制作時の気持ちを文章につづった。
 絵画以外に「しきおり絵詞」という作品は、一見すると長さ5メートルはあろうかという巨大な着物だ。青森に古くから伝わる「ドンジャ」という夜着を模し、学生たちが13年から古布を織って毎年作り続けている。
 丸木美術館では7月2日午後1時から美術批評家椹木野衣さわらぎのいさん、3日午後1時からは三瀬さんと鴻崎さんのトークイベントを開催する。問い合わせは同美術館=電0493(22)3266=へ。 

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