国民皆保険を守るには 國頭英夫さんに聞く<下> 医療費抑制へ 薬の量・治療期間見直しを

2022年6月30日 06時00分

医療保険制度について話す國頭英夫・日赤医療センター化学療法科部長=東京都千代田区で

 《「価値ある医療」を提唱する日赤医療センター化学療法科部長の國頭くにとう英夫医師(60)。前回は財政危機に瀕する国民皆保険制度を次世代に引き継ぐ重要性を訴えた》

 ―昨秋、非営利型一般社団法人SATOMI臨床研究プロジェクトを立ち上げました。名前は文筆家としての「里見清一」から取ったのですね。目指す「価値ある医療」とは何ですか。
 これまで医療の価値は効果と副作用のバランスで決まっていた。そこにコストの概念を加え、「医療の価値(value)イコール効果÷(副作用+コスト)」で考える。治療効果を上げながら、同時に医療システム全体の持続可能性を目指す。具体的には治療効果を維持しながら薬剤の投与量を減らす、あるいは治療期間を短縮する、その実現に向けた臨床研究を、資金面を含めて支援することが主な活動だ。
 アメリカでも医師らの学術団体で、薬の量を減らす研究が始まり、ある前立腺がんの経口剤を4分の1の量にしても同等の効果が得られたなどの研究報告がある。私たちも、ある肺がんの経口剤を高齢者などでは3分の1でも同じ効果があるという研究結果を出した。
 また、抗がん剤は手術で取り除いたがんの再発予防にも使われるが、大腸がんの再発予防に6カ月投与する代わりに3カ月で済ませても大して効果は変わらず、しびれという副作用が減ったという研究も行われた。
 しかし、この手の研究に薬を売りたい側の製薬企業からのサポートは得られない。今のところは「次世代のために」という理念を理解してくださる一般篤志家の寄付に頼っている。
 ―欧米と比べてこの30年間、給料が上がっていないと言われる日本で、診療報酬改定では、医師の技術料はプラス改定が続いています。医療費の節約による医療保険制度の維持は政治の役割ではないでしょうか。
 高額薬の使用を節約するくらいでは焼け石に水かもしれない。(診療報酬という)本体価格もどうにかしないといけないのだろう。しかし、政治家が何もしないから自分たちも無駄遣いを続けていいという理屈にはならないと思う。

 《19年までの30年間で、国の毎年の予算は35兆円増えたが、教育・科学予算は1兆1000億円増えただけ。この間、国民医療費は24兆円、国の借金の返済は12兆円近く増えており、予算の増加分にほぼ匹敵する。》

 医療費に糸目を付けず湯水のように使いながら、私たちは寿命を延ばしてきた。しかし、これからは人間の寿命を120歳に延ばすよりも、次世代の若者がわれわれと同じように、元気に80歳になれることを目指すべきだ。
 もし、みんなの命が平等に地球より重いとしたら、80歳の人より60歳の人、60歳の人より40歳の人の方が重いと思う。その差の分、生きなければ追いつかず、不公平になる。
 私には娘がいるが、当然、私は娘より先に死ぬべきだ。私の母親は健在だが、私より先に死ぬべきで、だれよりもそう望んでいるのは私の母親自身だ。
 そして、ただやみくもに医療費を削るのでは二宮尊徳の言う「道徳なき経済」になってしまうから、ちゃんとした研究で、無駄なところのみを省き、スリムだが価値を高めた医療で「最低限」を保つ。そうしなければシステムは崩壊し、後には「最低の医療」が残るだけになる。(聞き手・杉谷剛)

 くにとう・ひでお 1961年鳥取県生まれ。東京大医学部卒。90年から肺がんの診療に専門的に携わる。国立がんセンター中央病院、三井記念病院などを経て2014年から日赤医療センター化学療法科部長。里見清一のペンネームで「医学の勝利が国家を滅ぼす」「医師の一分」、また「死にゆく患者(ひと)と、どう話すか」など著書多数。SATOMI臨床研究プロジェクトのホームページはこちら

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