「安全」急いだ代償は?北欧2国がNATO加盟へ クルド人の人権に懸念 ロシアとは強まる緊張

2022年6月30日 06時00分
 フィンランドとスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)への加盟が確実になった。ウクライナに侵攻したロシアの脅威にさらされ、加盟を急ぐ両国は、反対していたトルコの支持を得るために人権問題を棚上げし、全面的な譲歩を余儀なくされた形だ。両国の加盟によってNATOの防衛力強化が期待されるが、ロシアとの緊張が高まる恐れもある。(マドリード・加藤美喜、カイロ・蜘手美鶴、モスクワ・小柳悠志)

◆NATOは強化 ロシアの反発必至

 「加盟は両国を強化し、NATOを強化する」。NATOのストルテンベルグ事務総長は28日の記者会見で、北欧2カ国加盟の意義を強調した。
 2カ国は近代的な軍隊を持ち、軍事同盟としてのNATOの防衛力は大幅に強化される。フィンランドはロシアと約1300キロの国境を有し、ロシアとNATO加盟国が接する国境線の距離は2倍となる。またバルト海周辺のNATO加盟国は8カ国に増える。ストルテンベルグ氏は「バルト海の安全保障状況が完全に変わる。両国の安全はNATOの集団防衛のもとで強化される」とも話した。
 対するロシアの反発は必至だ。ロシア下院のスルツキー外交委員長はネット上で「(両国の加盟が)すでに危機にある欧州の安全保障に及ぼす影響を理解するべきだ」と警告した。

◆反対していたトルコの要求丸のみ

28日、覚書の署名後、NATOのストルテンベルグ事務総長(左から2人目)と握手するトルコのエルドアン大統領=スペイン・マドリード(AP)

 人権重視を掲げる北欧2カ国だが、トルコは2カ国が非合法組織クルド労働者党(PKK)を支援してきたと主張する。特にスウェーデンは、トルコで迫害を受けたクルド人の知識人を多数受け入れてきた。ロイター通信によると、スウェーデンには約10万人のクルド系住民がいる。
 しかし2カ国は、ロシアの脅威を受けた安全保障上の懸念から、加盟支持を得るためにトルコの要求を丸のみする覚書に署名した。
 覚書は、トルコが要求する「テロ容疑者」の身柄引き渡しにも言及しており、北欧に逃れたクルド人の安全を懸念する声が出ている。スウェーデンのクルド系無所属国会議員アミネ・カカバベ氏は28日、同国メディアに「政府はNATO加盟のために全てを売り渡した。悲劇の日だ」と同国の方針転換を批判した。

◆トルコ、米国からの兵器供与も進展得たか

 一方、覚書はトルコ側にとっては「満額回答」となった。トルコ大統領府は28日の声明で「覚書は、PKKとの戦いでトルコとの完全な協力を示している」と評価した。
 トルコのエルドアン大統領は28日、マドリードへの出発前にバイデン米大統領と電話協議した。エルドアン氏によると、トルコが求める米製F16戦闘機の売却などについて協議することを確認したという。
 バイデン政権はこれまで、トルコの言論取り締まりやロシア製地対空ミサイル「S400」の配備を問題視してきた。しかしトルコが北欧2カ国の加盟を認める見返りとして、バイデン氏が戦闘機売却や経済支援などを認めたとの観測が流れている。トルコ人批評家ジャウダット・カメル氏(エジプト)は「米国との関係改善のため、トルコは加盟問題を交渉カードとして使ったとみられる。エルドアン外交の勝利だ」と指摘した。

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