原材料高騰で町工場が苦境、遠のく中小企業の賃上げ 大企業相手に価格転嫁も難航<くらし直撃~2022参院選>

2022年6月30日 06時00分
 物価高が止まらない中、賃上げが参院選でも争点になっている。特に雇用者の約7割が中小企業で働く日本では、中小が物価上昇に追いつく賃上げを実現できるかがカギを握る。だが、町工場などは原材料価格が高騰しても、大手の取引先への納入価格に上乗せできず利益を削っているのが実態。賃上げは厳しさを増している。(大島宏一郎)

取引先から送られてきた値上げ要請の文書を手にする経営者の男性(一部画像処理)=22日、東京都品川区で

◆仕入れ値1月に15%上昇、8月にさらに15%も

 「原材料価格が上がり続ければ賃上げの限界が来る」。印刷会社を営む男性社長(56)=東京都品川区=は、製紙業などの仕入れ先から届いた14枚の値上げ要請文を見て危機感を抱く。
 この会社は、これまで20〜30代の従業員を中心に定期昇給などの賃上げを手厚くしてきた。しかし、紙などの仕入れ値は今年1月に15%上昇。2022年3月の決算は経常利益が「トントン」になるまで減った。8月にも15%上がる見込みで納入先への価格引き上げは追いついていない。
 収益が圧迫される中、男性は賃上げについて「みんな同じように上げたいが難しい」と悩む。4〜7月期の収支は赤字になりそう。8月支給のボーナスも「例年は給料の1カ月分を出しているが、『餅代』程度の一律5万円に減らさないと会社が維持できなくなる」という。

◆価格決定の主導権握る取引先の大企業

 日本では雇用者の約7割にあたる3220万人が中小で働く。政府資料によると、従業員100人未満の企業の賃金は月額平均27万9900円と1000人以上の同33万9700円と比べて約2割低い一方、粗利益を人件費に回す割合「労働分配率」は中小の方が高く経営に余力はない。中小の賃金が安く抑えられてきた背景には、価格決定の主導権を取引先の大企業に握られ、値下げを要求され続けてきた構図がある。
 08年のリーマン・ショック以降は、大企業が海外に工場を移して現地で生産・販売する動きが加速。国内に残った多くの中小は安い海外製品との価格競争にさらされながらも「大手と取引継続を優先しようと価格を抑える」(中小企業団体関係者)ようになった。

複数の仕入れ先から送られてきた値上げの通知を前に、厳しい状況について話す工場経営者=都内で

◆みんなで同じように上げてあげたいが…

 大手電機メーカーなどと取引するプラスチック部品の加工会社を営む男性社長(62)=品川区=は「納入先との価格交渉は難航している」と嘆く。男性は、原油高の影響で仕入れ値が20%上昇したアクリル板などのコスト増加分を価格転嫁したいと持ちかけたが納入先から「御社で吸収できないか」と渋られた。
 こうしたいびつな構造が改善されない限り、中小の賃上げは困難だ。賃金に詳しい日本総研の山田久氏は中小は大企業から価格競争を迫られ「賃上げの原資となる利益を確保しにくくなった」と指摘。「賃上げを中小にも波及させなければ、消費につながらず、日本経済を成長させることはできない」と話した。
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