<コラム 筆洗>なんの知識も経験もない男が禅寺の住職になってしまう落語の「…

2022年6月30日 07時02分
 なんの知識も経験もない男が禅寺の住職になってしまう落語の「こんにゃく問答」の中に酒や生臭い食べ物の符丁を教わる場面がある▼「不飲酒戒」の禅寺。大っぴらに酒なんて言われては困るというわけで酒は「般若湯」、マグロは「赤豆腐」と教えられる。サザエが「げんこつ」で鶏卵は「御所車」。中に君(黄身)がいるから。おもしろいが、どう言い換えてみても酒は酒、卵は卵である▼この言い換えは成功するか。東京都は「育児休業」の愛称を「育業」とすると発表した。育児は休みではなく、大切な仕事=「業」。そう呼ぶことで育児休業を取ることに後ろめたさを感じなくてすむようにしたいという狙いらしい▼愛称が浸透し、男性も育児休業を取りやすい時代が来ることを願う一方、月末最後の金曜日を意味する「プレミアムフライデー」の呼称がまるで広まらなかったような成り行きを想像してしまう▼育児のための休業が当然である一方、社会全体の理解が進んでいるとは言い難い。男性の育児休業取得率(二〇二〇年度)は一割程度。育児休業に対する認識ががらりと変わらぬ以上、その愛称は広まりにくいし、どう言い換えても、休業は休業と見られてしまう▼「育児休業です」。そう胸を張って言える環境をまずはつくりたい。人の目をはばかり、言い換えなければならないようなことは誰もしていない。

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