<曇りのち晴れ>父の徘徊

2022年6月30日 07時26分
 昨年の秋、父が外出先で、自分がどこにいるか分からなくなり、警察に保護された。父はその日の夕刻、家を出てしばらくさまよい歩くと、頭が混乱したのか、普段は乗り降りしない駅の近くにある不動産の店に入り「ここはどこですか?」と尋ねた。店の方が異変に気づき、バッグの所持品から住所や名前が判明したため、地元の警察署に連絡してくれた。
 警察からの電話で私が父の家に駆けつけると、警察官に連れてきてもらった父がしょんぼりしている。警察官から「一人にしないように」とくぎを刺された。何十年も連れ添った妻、つまり私の母が入院したため不安にかられて探そうとしたらしい。
 92歳になる父は認知症が進み、今は老人ホームにいる。プライドが高く、自分が徘徊(はいかい)したと知ったら落胆するだろうが、何でも忘れてしまうので、その心配はなさそうだ。私の顔を見ても「どちらさんですか?」と聞くほど症状が進行した。覚えていない、というのは家族にすれば寂しいが、救われることもある。 (小田克也、56歳)
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厚い曇り空でも雲の向こうには必ず青空がある−
そんな思いを胸に、記者が暮らしの出来事を綴(つづ)ります。

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