夜間中学 夢の学びや 元難民の卒業生、増設へ活動

2019年11月28日 02時00分

夜間中学で学んだ日本語で書かれたメモを読み上げる伊東久里寿那さん=横浜市で

 カンボジアのポル・ポト政権下で迫害を受け難民として来日した伊東久里寿那(くりすな)さん(47)=神奈川県大和市=が、公立夜間中学設立を訴える活動に取り組んでいる。夜間中学に通って世界が変わり、「人間として自信が持てた」という。学びを求める人が学べるよう、きょうも声を上げる。 (天田優里)
 伊東さんのメモ帳には、ペンで書かれた達筆な漢字とひらがなが並ぶ。「自分の歴史を聞かれるから、忘れないようにメモしているの」。イベントで自身の体験を講演するときに参考になるよう、したためた。
 伊東さんは、全国四十七都道府県に最低一校の公立夜間中学設立を呼び掛ける市民団体「夜間中学校と教育を語る会」(東京都荒川区)の活動に参加している。「読み書きができれば未来が開ける。外国人だけでなく、不登校だった人にも学べる場所を作ってほしい」と訴える。
 ポル・ポト政権下で公務員だった父は殺害された。政権崩壊後の混乱でも母、兄妹と命の危機にさらされながら転々とした。小学校には二年生までしか通えず、読み書きや計算ができないままタイの難民キャンプに逃れた。
 その後、十五歳で来日し、ゴム工場に就職。寮では一部の日本人からいじめに遭ったが、家族を思って踏ん張った。
 二十三歳で日本人と結婚。三人の子どもを保育園に通わせる中で「日本の子は、なぜこんなに幸せに生きられるのだろう」と感じたという。読み書きできない自分が悔しく、友人に相談し、夜間中学の存在を教えてもらったことが転機となり、二〇〇三年に横浜市の夜間中学の門をたたいた。
 仕事や育児との両立は大変な上に、同級生は全員が自分より年下で戸惑いもあったが、あこがれていた学校に「ウキウキが強かった。苦労したけれど、夢がかなって『生徒』になれた」と振り返る。
 今は保育園のスタッフとして働くかたわら、難民支援のNPOに所属する。履歴書に学歴を記せることで「社会に認められた」と感じている。
 ◇ 
 夜間中学校と教育を語る会が行っている「全国夜間中学キャラバン」は、十二月一日に宇都宮市の宇都宮競輪場と東京都八王子市のカサデホールで、二十一日に葛飾区の青戸地区センターで開催予定。伊東さんも出演したドキュメンタリー映画「こんばんはII」の上映などがある。
 問い合わせは同会の庄司さん=電070(4323)3855。

◆9都府県に33校のみ

 九都府県に計三十三校ある公立夜間中学のうち、関東地方は東京都八校、埼玉県一校、千葉県二校、神奈川県二校の計十三校。埼玉県川口市と千葉県松戸市は今年四月に開校したばかりで、在籍生徒数は川口市が十一月現在で六十七人。うち、外国人が四十人。松戸市では九月現在、生徒数は二十三人で外国人は七人。
 文部科学省によると、全国では開設が決まっている自治体もある。二〇二二年には、札幌市に北海道初の公立夜間中学が開設される見込み。ほかに高知県や徳島県、茨城県常総市でも開設方針が決まったという。
 一方、東北や中部、九州にはない。地域によってばらつきがある背景には、定住外国人の数や、自治体の財政事情などがあるとみられる。東京や大阪では一九五〇年代以降に夜間中学が複数設置されたことなどもあり、相対的に数が多い。文科省の担当者は「水面下で設立に動いている自治体があるという話も聞く。全都道府県の開設に向けて努めたい」と話している。
<公立夜間中学> 戦後の混乱など、さまざまな事情で義務教育を修了できなかった人が学ぶ。最近は定住外国人や、形式的に中学校を卒業していても、不登校で十分に通えなかった人が学び直す場の役割も担う。国は全都道府県に設置する目標を掲げて自治体に取り組みを促しているが、主に財政面が壁となっている。

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