「結果的に防げなかった。深く反省する」 失敗だった行政対応、悔やむ元副知事 熱海土石流

2022年6月30日 12時00分
<癒えぬ傷痕 熱海土石流災害1年・下>

土石流発生後の対応を振り返る元静岡県副知事の難波喬司氏=県庁で

 「行政対応は失敗だった」ー。熱海市伊豆山の土石流で、静岡県と市の対応を検証していた県の第三者委員会「行政対応検証委員会」が5月13日、最終報告書でこう総括した。その4日後、記者会見した県の難波喬司たかし副知事=当時、現在は県理事=は「結果的に悲惨な災害を防げなかった。深く反省する」と悔しさをにじませた。
 昨年7月3日、難波氏は災害発生の一報を受けて現場に急行し、情報収集を指揮した。国土交通省の元技官で、土木工学の知見が役立つことになる。
 県の調査は迅速に進み、いくつかの事実が判明する。崩落した土地の前所有者が2007年、熱海市に盛り土の造成を届け出たこと。その申請の2倍を超える土砂が運び込まれ、不適切に施工されたこと。土地は11年、現在の所有者に引き渡されたこと―。難波氏は発生から1週間も空けず「盛り土は不法かつ不適切な方法で造成されたのだろう」と明らかにした。
 裏を返せば、行政が不正を阻止できなかったことにもなる。「責任の所在はいったん置く。まず事実を明らかにしないと、被災者の無念は晴れない」と事実関係の把握を優先させた。
 県と市は昨年10月、盛り土造成の経緯について4000枚以上に及ぶ公文書を公開した。発生原因を検証する有識者会議のほか、弁護士や学者らでつくる行政対応検証委も開催。背景を探ろうと、退職した元職員や業者ら39人に聞き取り、検証委に報告していった。
 一連の調査から浮かび上がったのは、県、市ともに盛り土の危険性を認識しながら、土地の前・現所有者らに強い対応を取らなかった実態。11年には市が前土地所有者に対し、県盛り土条例に基づいて安全対策を求める措置命令を見送っていた。検証委は「最悪の事態の想定」「初動」「県と市の連携」のいずれも失敗だったと総括した。
 こうした教訓から県は、4月に盛り土の担当部署を新設し、法令が多岐にわたる盛り土問題に対処するため庁内外の関係者が話し合う会議を設置。7月には、盛り土の規制や罰則を強化する新条例も施行する。
 監視体制が強化された一方、不正に造成された盛り土の責任は不透明なまま。前所有者は「盛り土の申請をしただけ。造成したのは別の業者」、現所有者は「盛り土の存在を認識していなかった」と責任を認めていない。遺族らは「なすり付け合っているだけ」と批判し、損害賠償請求訴訟や県警の捜査に期待する。
 その盛り土の一部は今も土石流の起点に残り、再び崩落の恐れがある。熱海市は5月末、撤去を求め前所有者に措置命令を出したが、応じるか分からず、撤去の見通しは立っていない。
 「被災者が元の住所に戻れていないのに、別の仕事をするわけにいかない」。5月中旬で副知事を退任し、県の理事として残った難波氏。災害を阻止できなかった行政を担った1人として、帰還の道筋を付けるまで辞めないつもりだ。(塚田真裕、中川紘希、板倉陽佑)
     ◇
 27人が犠牲になり、1人がいまだ行方不明の熱海市伊豆山の土石流から7月3日で1年。この間、被災地はどう変化し、遺族たちはどんな日々を送ってきたのか。真相究明の取り組みは進んだのか。それぞれの現場や課題に迫った。

 熱海市伊豆山の土石流 2021年7月3日午前10時半ごろ発生。災害関連死1人を含む27人が亡くなり、今も女性1人が行方不明のまま。発生後は市内のホテルが避難所となり、最大約580人が避難。今も約130世帯が仮住まいだ。県によると、建物被害は136棟。市には約60軒の解体申請があり、来年1月末までに取り壊される見込み。遺族らは不適切に造成された盛り土が原因の「人災」と主張。盛り土のあった土地の前・現所有者らに損害賠償を求めた訴訟が始まっている。業務上過失致死容疑などで刑事告訴もし、静岡県警が捜査中。当時の県や市の対応を巡っては、県の第三者委員会が「失敗」と結論づけた。市議会で百条委員会が設けられ、年内の調査結果公表を目指している。

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