「酒で南北コミュニケーションを」 韓国の若手起業家が脱北元軍幹部から酒造学ぶ 秋に焼酎など発売へ

2022年6月30日 12時42分

韓国・大田市で6月上旬、北朝鮮の方法で焼酎を蒸留する閔在明さん(左)と黄朱商さん

 韓国中西部の大田テジョン市で、地域活性化に挑む若手起業家コンビ閔在明ミンジェミョンさん(33)と黄朱商ファンジュサンさん(29)が、脱北した朝鮮人民軍元大佐から北朝鮮式の焼酎や濁り酒の製造を学び、今秋の発売を目指している。若い脱北者を雇う計画もあり、「お酒をきっかけに朝鮮半島の平和も考えたい」と意気込む。(大田で、相坂穣、写真も)

◆北に関心はなくても酒好きは多い

 ソウルから高速鉄道「KTX」で約1時間の大田は、首都一極集中の陰で衰退する都市の1つだ。人口は約145万人で10年前から7万人減り、過疎が深刻化している。中心部は若者向けの洋服店や飲食店が並ぶものの、人通りが少なく閑散としている。
 「大田は交通の要所で高い科学技術を持つ企業も多いが、若者を引きつける文化が乏しく面白くないといわれる。他の地域にない観光資源を開発したい」。大田で育ち、地元大学で出会った閔さんと黄さんは、2020年に酒造会社を起業した。
 閔さんは、学生時代に留学した中国東北部で訪れた北朝鮮レストランで味わった酒を主力製品にしようと考えた。「韓国では北朝鮮に関心がない若者が増えているが、酒好きは多い。南北がいつか酒を介してコミュニケーションを取り、交流を深める機会をつくりたい」との思いもあった。

韓国・大田市で6月上旬、北朝鮮式の濁り酒を醸造する黄朱商さん

 2人の酒造所は市街地の雑居ビル内にある。大田産の米と水を使い、北朝鮮の方法で蒸留した焼酎はアルコール度数38度。一般的な韓国焼酎の約2倍で、のどが熱くなる強烈な飲み味だ。濁り酒は、韓国のマッコリに見た目は似ているが、原料は北朝鮮で貴重な米ではなくトウモロコシを使うため、果実感のある独特な香味がある。

◆密造技術伝える元特殊部隊の鄭さん「北の住民は普通の人」

黄朱商さん(左)らの作った濁り酒を試飲する鄭明雲さん

 指導役を務める脱北者の鄭明雲チョンミンウンさん(60)は、北朝鮮の金日成キムイルソン主席が抗日運動を闘ったとされる北部の白頭ペクトゥ山一帯を拠点とする軍特殊部隊の幹部だった。しかし06年に当時の金正日キムジョンイル総書記の軍事政策が現場の意見を踏まえず実戦的でないと批判し、軍から追放された。北朝鮮は1990年代には「苦難の行軍」と呼ばれる食糧難に陥る。鄭さんは餓死する住民らを目の当たりにし、「このままでは国が滅びる」との危機感があったという。
 韓国に来て15年が過ぎた昨年、閔さんらの酒造りの挑戦を知った。北朝鮮では当局の目を盗んで酒を密造した経験があり、その技術を伝えることにした。
 鄭さんは「北朝鮮は変な国だと思われるが、悪いのは政治家。住民は仲間と集まって酒を飲んで楽しむ普通の人たちだ」と話す。
 閔さんらは、夏以降に焼酎の生産や出荷が本格化することを見据え、脱北者の若者らを雇用する計画もある。「生活習慣が異なる韓国に来て、孤立する傾向がある人たちを支えたい」と話している。

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