「越水に強い堤防を」 住宅側のり面保護で壊れにくく

2019年11月27日 02時00分

「この水位まで泥水に漬かりました」と自宅外壁を指し示す皆川雅明さん。市からは「大規模損壊」の判定を受けた=茨城県常陸大宮市野口で

 台風19号による河川の堤防の決壊は、川の水があふれる「越水」で住宅地側が削られたことが原因となったケースが少なくない。一方、複数の旧建設省(現国土交通省)OBは、国が過去に中止していた、越水に耐え得る安価な堤防強化策の再導入を訴えている。 (小倉貞俊)
 「川の水があふれただけだったら、ここまでひどくならなかった」。茨城県常陸大宮市野口の那珂川流域。浸水した自宅の清掃をしていた会社役員皆川雅明さん(64)が声を落とす。
 十月十三日未明、堤防が長さ二百メートルにわたり決壊。五十軒近くの民家や畑、ビニールハウスが水に漬かった。堤防から四百メートル離れた皆川さん宅も床上一メートルまで浸水。テレビや洗濯機、冷蔵庫などは廃棄処分に。「水だけならすぐに引いたはず。決壊で大量に押し寄せた水が泥と一緒になり、積もってしまった」と嘆いた。
 国や各県はそれぞれが管理する堤防の決壊原因を調査しているが、この堤防や、大規模な氾濫が起きた千曲川(長野市穂保)の堤防など、越水が原因とみられるケースは少なくない。

末次忠司教授

 こうした被害に「耐越水堤防の整備が急務だ」と指摘するのは、旧建設省土木研究所河川研究室長を務めた末次(すえつぎ)忠司・山梨大大学院教授だ。浸食を防ぐため、堤防の裏のり(住宅地側ののり面)をシートで保護し、天端(てんば)(堤防の上面)とのり尻(住宅地側ののり面の下部)を補強する工法。「一メートルで百万円以下と安価で済むし、越水に一~二時間は耐えられる」と評価し、ダム建設などより低コストとする。
 実は旧建設省は二〇〇〇年、「フロンティア堤防」の名称で、こうした耐越水堤防を全国で整備する方針を決めたが、二年後に突然、中止した。「ダム建設の妨げになる」との同省幹部の意向もあったとされる。
 現在、国交省は、越水で鬼怒川の堤防が決壊した一五年の関東・東北水害を教訓に、五カ年計画の堤防強化に着手。堤防のかさ上げができない箇所は、天端、のり尻の二点の補強を進めている。同省によると、那珂川水系の堤防整備率は38%と、全国平均(68%)を大きく下回り、常陸大宮市野口の堤防は、河川整備計画より高さが二・三メートル不足。越水の可能性は認知されており、今後の工事対象になっていた。
 ただ末次氏は「二点だけでは逆に斜面がもろくなり不十分。裏のりの保護が必要だ」と強調。「台風が大型化しているからこそ、越水を前提に対策しなければ。時間も稼ぎ避難を確実にする効果がある」と話す。
 旧建設省土木研究所次長だった石崎勝義・元長崎大教授も、昨夏の西日本豪雨で天端とのり尻の二点を補強した小田川(岡山県)の堤防が決壊した事例を挙げ、「バケツに三つ開いた穴の二つしかふさがないようなもの」と批判。「官僚の文化として一度中止した政策を復活させづらいのだろうが、ダムやスーパー堤防を後回しにし、事業費をまず耐越水化に充てるべきだ」と警鐘を鳴らしている。

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