<社説>香港返還25年 歴史の改ざん懸念する

2022年7月1日 07時50分
 七月一日に英国から中国への返還二十五年を迎える香港で、歴史を改ざんする動きが出ていることを懸念する。香港の中学と高校で九月の新学期から使用される新しい教科書に「香港は英国の植民地ではなかった」という記述が盛り込まれるという。香港の主権を放棄したことはないという中国政府の見解に沿ったものであろうが、国際的な歴史認識とは完全に異なるものである。
 香港メディアによると、複数の出版社の教科書で、香港島を英国に割譲した南京条約などを念頭に「中国政府は不平等条約を承認していない」などの記述が採用されたという。英国は香港を占領したが、中国は不平等条約を認めず、植民地にはなっていないという中央政府の言い分を中高生に教え込む狙いがあるとみられる。
 だが、それはあくまで中国側の一方的な主張であり、国際社会は一九九七年に英国の植民地支配が終わり、香港に対する主権が中国に返還されたと認識している。
 最後の香港総督、クリストファー・パッテン氏は六月二十日、ロンドンでの会見で「英領香港は確かに存在し、それは自由な社会だった」と述べ、歴史の証人として「英国植民地香港」の存在を否定する教科書の記述を批判した。
 こうした香港での歴史改ざんともいえる動きの背景には、愛国を通じて中華民族の一体化を図ろうとする大陸への配慮があろう。
 現に、人民日報傘下の中国紙、環球時報は、教科書の新記述について「愛国者による香港統治を行ううえで、誤った固有概念の重要な修正」と論評した。
 返還後の香港では、一国二制度実践の一環として時事問題を学ぶ「通識科」が高校で必修とされ、民主化運動の若きリーダーたちを生みだす知的背景になった。だからこそ香港政府は昨年、通識科に替えて「公民と社会発展科」を導入。次学期からの新教科書で一層、愛国教育を強めるもくろみなのであろう。
 香港の強権支配を進める中国の習近平国家主席は一日の返還式典に出席し、愛国者による統治の徹底を呼びかけるとみられる。
 植民地制度が人類の負の遺産であることは言うまでもないし、今や大国になった中国にとっては消し去りたい屈辱の過去であろう。それでも、歴史の事実には厳粛に向き合うべきである。

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