<書評>『日米地位協定の現場を行く 「基地のある街」の現実』山本章子、宮城 裕也(ひろや)著

2022年7月3日 07時00分

◆「安保のトゲ」許す世論を告発
[評]前泊博盛(沖縄国際大学教授)

 日米安保、特に日米地位協定問題と聞けば「沖縄問題」と思うのは、大きな誤解である。本書を読めば、地位協定問題がこの国の主権と人権、国民の生活を破壊する「日本問題」であることに気づく。
 地位協定は「安保のトゲ」である。だが、そのトゲは、在日米軍の存在はロシアや北朝鮮、中国などの周辺諸国への「抑止力」であり、「地位協定の改定は、米軍撤退につながりかねない」との恐怖心からだれも抜こうとはしない。
 数年前、自民党の石破茂・元防衛大臣は「日米安保があるからといって、いざとなったらアメリカが自動的に守ってくれるとは、もう思わない方がいい」と民放テレビのインタビューに答えた。評者は「これで石破氏はもう絶対に首相にはなれない」と確信した。この国の「国防の柱」である日米安保を否定するような発言は、安保神話に共依存する圧倒的多数の国民を敵に回すことを意味するからである。
 「この国では本音と真実、正論を語る者は、世間から歓迎されない」と、評者も多くの識者から再三忠告を受けてきた。触れてはいけない日米安保と地位協定問題に、地位協定研究者と沖縄出身の全国紙記者のコンビが、足で稼いだファクト(事実)とエビデンス(証拠)を分析し、基地と地域、米軍と日本政府の共依存関係の本質と問題点を、地位協定の条文や合意議事録と絡めながら次々に真相を浮き彫りにしている。
 NATO(北大西洋条約機構)と異なり平時と有事の区別なく基地の自由使用を許し、入管チェック無しの出入国の自由や国内の移動の自由、民間空港・港湾も通告無しで自由使用特権を認め、燃料タンク投棄による湖水汚染や水道水源のPFOS・PFOA(有機フッ素化合物)汚染など、汚しても原状回復義務を免除され、補償を回避し、汚染物質の撤去や浄化を日本が担わされる。そんな地位協定の不合理や不条理の数々が北は青森から南は沖縄まで克明に踏査リポートされている。
 国民を刺す「安保のトゲ」の実相を本書でじっくり読み解きたい。
(岩波新書・990円)
山本 1979年生まれ。琉球大准教授。
宮城 1987年生まれ。毎日新聞記者。

◆もう1冊 

山本章子著『日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書)

関連キーワード


おすすめ情報