<書く人>現実を揺さぶる幻想 『無垢なる花たちのためのユートピア』 歌人・小説家 川野芽生(めぐみ)さん(30)

2022年7月3日 07時00分
 幻想的なモチーフやフェミニズムを詠んだ第一歌集『Lilith(リリス)』で昨年の現代歌人協会賞を受賞した気鋭の歌人。初の小説集は幻想世界を描きつつ、現実に鋭いまなざしを向けた。
 大学時代に始めた短歌よりも早く、物心ついた頃から小説を書いてきた。本書は六編を収録した短編集。商業誌デビュー作「白昼夢通信」は<氷花月(ひばなづき)の三日><文箱(ふばこ)に入ったミルフィーユ><眠る竜の祖母>といった言葉が彩る往復書簡から、詩的な世界が浮かび上がる。表題作は花の名を冠した少年たちが空を飛ぶ船で楽園を目指す物語だ。「詩情を込める文章と情報を伝える文章の両立を意識した。短歌のような密度で全文を書くと、読みづらいので」と苦笑する。
 幻想というと、美しく儚(はかな)いイメージを持つ人も多いのでは。川野さんは異なる可能性を見る。「現実をつくっているのは、人々の『現実はこういうもの』という認識。幻想はそれを揺さぶり、変えることができるはず」と。
 思いが強く表れた一編が「卒業の終わり」だ。主人公の雲雀草(ひばりぐさ)は少女だけを集めた<女学園>を卒業、<外>で働き始める。そして仕事、容姿、結婚、生殖を巡る女性差別に困惑する。
 多くの人々は差別を認識していない。主人公に好意を寄せる男性フジノの<こんなに頭のいい女性がいるとは思いませんでした>というせりふが象徴的だ。
 自身の体験と重なる点が多い作品という。中学、高校を女子校で過ごし「性差別はほとんど経験しなかったし、外でも解消されていると思っていた」
 だが東京大に進学して一変、幾度となくミソジニー(女性蔑視)に直面するように。「学生は男性八割、女性は二割。『女性は結婚したら専業主婦』と決めつけたり、対等ではなくアクセサリーのように見られたり。フジノに特定のモデルはいませんが、(似たような性質の人は)たくさんいましたね」と振り返る。
 作中では<外>に疑問を持たず、現状を受け入れている女性たちも登場させた。認識は学びや出会いによって変わることを、あらためて突きつけてくる。
 「今の社会を批判して変えていく『危険人物』を育てること。それが『学び』の意味だと私は思います」
 東京創元社・一八七〇円。 (谷口大河)

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