トキと同じレベルの絶滅危惧種「フサヒゲルリカミキリ」 足立区生物園が挑戦3度目で羽化に成功

2022年7月2日 12時00分

フサヒゲルリカミキリのエサにするため園内で育てているヤブカンゾウについて説明する飼育担当の腰塚祐介さん=東京都足立区で(木口慎子撮影)

 体長2センチ弱の小さなカミキリムシに注目が集まっている。環境省レッドリストで野生での絶滅が危惧される「フサヒゲルリカミキリ」の羽化に、東京都の足立区生物園が成功した。木を食べる一般的なカミキリムシと異なり、幼虫は主食となる草の花茎の中で越冬するが、飼育下での越冬方法は確立されていなかった。(小形佳奈)
 恒温庫から取り出されたプラ容器の中に、6月上旬に羽化した成虫がいた。名前の由縁となった、房状の長い触角を盛んに動かしている。飼育担当の腰塚祐介さん(31)は「とにかく安心した、そのひと言」と控えめに語る。成虫の寿命は1〜2カ月。この間に交尾と採卵を進める計画だ。
 環境省のホームページによると、フサヒゲルリカミキリは、北海道と本州の一部で生息していた記録があるが、2020年現在、確認されているのは岡山県だけ。開発やシカによる食害などで、主食であり成育の場であるユウスゲが生える湿地や草地が減ったのが要因だ。昨年、保護増殖事業計画が策定された。レッドリストの絶滅危惧ⅠAは、トキと同じレベルだ。

足立区生物園が羽化に成功した環境省レッドリスト指定のフサヒゲルリカミキリ=東京都足立区で(木口慎子撮影)

 18年、環境省と同園、兵庫県の伊丹市昆虫館が連携した飼育下繁殖の試みを始めた。幼少期から虫好きで13年に入園してから、昆虫担当一筋の腰塚さんは「絶滅危惧種の中でもより絶滅が危ぶまれる昆虫。何とかしないと」と使命感に駆られた。
 専門家に生態を教わって準備したものの、6月に飼育を始めた幼虫は翌春、さなぎになる(蛹化ようか)ことなく全滅した。秋に花茎の中で休眠に入ったところまで生存を確認できたが「冬を越せたかどうかも分からなかった」。
 2度目の20年夏は、交尾済みのメスを導入。採卵とふ化に成功したが、蛹化には至らず。生息地の高原の気候を参考に、朝晩で温度差を付け、乾燥を防ぐために幼虫が休眠する花茎を入れた試験管に栓をしたが「温度管理に失敗し、多湿になってしまった」。

容器の中で育てられている。体長は2センチ弱と小型=東京都足立区で(木口慎子撮影)

 そして3度目。昨夏は卵と幼虫の状態から飼育を始めた。それまでの反省から休眠後は刺激を与えないよう生息確認の回数を減らした。今年5月末、茎の中で初めてさなぎになった。6月8日朝、羽化した成虫が茎の外に出た。7月1日現在、15匹が羽化した。
 関根雅史園長(52)は「貴重な生きものをお預かりしてかなりのプレッシャーだったはず」と腰塚さんをねぎらう。「苦労が実って良かった」と笑顔を見せた。
 成功したのは、幼虫が休眠に入る前に餌が十分にあったこと、伊丹市昆虫館の飼育担当者が実際の生息地に足を運び温度や湿度などのデータを収集し、共有してくれたことが大きいという。腰塚さんは「うちだけでは成し遂げられなかった」と感謝する。
 次代への繁殖を優先させるため、一般には公開しない。「今回羽化した成虫が卵を産み、ふ化してようやくワンサイクル。個体が増えたら、じかに見てもらいたい」。生物園生まれの個体が、野生に羽ばたく日を目指し、飼育技術の確立に力を注ぐ。

 足立区生物園 1993年開園。「体験型いきものパーク」を掲げて昆虫、魚類、両生類、は虫類、鳥類、哺乳類など約500種の生き物を飼育する。2014年から長崎県対馬市だけに生息するチョウ「ツシマウラボシシジミ」の生息域外保全にも取り組んでいる。所在地は東京都足立区保木間2の17の1。問い合わせは、電03(3884)5577へ。


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