<この声を 参院選埼玉>(2)物価高 業者と消費者の限界近く

2022年7月3日 07時56分

自社の養豚場で育てる子豚たちを見回る「かとちく」の加藤社長=川越市で

 埼玉県川越市郊外の畜産会社「かとちく」。敷地内の養豚場でブタ約八百匹を飼い、約九割を食肉向けに出荷している。加藤健一社長(70)と従業員二人の零細経営だ。
 同社の豚肉は「肉にあまみを感じる」と出荷先や消費者から高い評価を受けてきた。その秘訣(ひけつ)の一つが、製パン会社から安く仕入れた余剰生産品のパンや菓子を飼料に加えること。肉質の向上と餌代の削減を同時にかなえる“一石二鳥”は「経営努力で成し遂げてきた」と自負するものだ。大量に必要な水も自前の井戸で賄うなど、コストを削ってきた。
 だが、努力にも限界がある。コロナ禍からの経済活動の再開やロシアによるウクライナ侵攻、円安などの影響で物価高が急速に進んでいる。特に頭が痛いのが配合飼料の価格高騰だ。農林水産省によると、直近の一トン当たりの価格は昨年同期比で二割近く上昇。生産コストの大部分を占める餌代がかさむ一方で、簡単には価格転嫁できず、加藤さんは「卸価格は思うように上がっていない」と天を仰ぐ。
 今のところ電気代は経営を圧迫するほどではないが、これから豚舎の扇風機がフル稼働するし、冬は暖房を使う。ただでさえ最近二年半はコロナ禍による飲食店の営業自粛などで消費が減り、生産現場もダメージを受けてきた。政治家にはそうした痛みが分かる、「市民と同じ目線で考えられる人」を望む。
 県は畜産農家を支援するための補助金を盛り込んだ補正予算案を県議会六月定例会に提出、政府も飼料価格の安定に向けて補助金事業を強化しているが、「高騰がいつまで続くか見通せない」と不安は尽きない。
 県養豚協会の前会長でもある加藤さん。県内では後継者不足もあって廃業する同業者も少なくないという。「若い人が希望を持てる未来をつくれるか、政治の責任は重い」。中長期的には中国などでの消費の伸びを受けて食肉価格は上がっていくと望みを抱くが、「それまで零細の業者が耐えられるだろうか」と気をもむ。
 ◇ 
 物価高は小売りの現場も疲弊させている。草加市のスーパーで精肉を販売する「KEIBI」の専務村中裕之さん(57)によると、五月の大型連休前から国産、輸入ともに豚肉の仕入れ価格は一キロあたり二百円ほど値上がりし、高止まりの状態が続く。
 しかし、客離れが怖く、店頭価格の値上げには踏み切れずにいる。余力はいくらもなく、村中さんは「社員の給料を削るわけにもいかない。もってあと一カ月くらい」と頭を悩ませる。
 十七歳の孫娘と同居し、毎日食事や弁当を作っている草加市の豊崎加奈子さん(74)は「孫は肉じゃないと残すから」と欠かさず肉料理を食卓に並べる。別の店では肉の価格がじわじわと上がっており、家計にこたえるが、「孫のために買わないわけにはいかないですからね」とため息をつく。
 川口市のパート女性(45)は高校生の娘を育てるひとり親。じゃがいもやたまねぎも値上がりし、食用油の価格も高騰している。「お肉も高いし、カレーライスを作るのも控えるようになった。ひとり親は苦しい。とにかく値上げをなんとかしてほしい」。日々を暮らす上での切実な願いだ。(武藤康弘、浅野有紀)

関連キーワード


おすすめ情報