<この声を 参院選埼玉>(3)クルド人難民 同じなのに排除「なぜ」

2022年7月4日 07時39分

自身の半生を語るクルド人の男性=蕨市で

 落ち着いた口調には静かな怒りがこもっていた。「私たちも難民なのに、なぜ排除の対象とされるのか納得できない」。五月末、埼玉県蕨市内で開かれた講演会。地元に住んで十年ほどになる二十代のクルド人男性がマイクを握り、よどみない日本語で語った。
 「私たちも」という訴えの裏にはウクライナの戦禍がある。ロシアの侵攻から逃れた人々を、日本政府は千人以上受け入れている。生活費を支給するなど支援も手厚い。「良いことだとは思うけど…。出身国で扱いが違うのではないか」
 トルコなど各国で迫害を受けるクルド人は、川口市周辺に約二千人いる。大学生である男性や両親は難民認定を申請しているが、認められた同胞は過去にいない。在留資格がない非正規滞在や、入管施設への収容を一時的に解かれた仮放免の人が多いゆえんだ。
 男性も来日してからずっと仮放免。小学生のころ、父が数カ月間収容された。「あの子のお父さん、悪い人だから遊ばないで」。授業参観で同級生の保護者がささやくのを聞き、学校を休みがちになった。
 それ以上に傷ついた言葉がある。入管に初めて一人で出向いた高校一年のとき。「学校行っても在留資格がないから時間もお金も無駄だよ。国に帰りな」。職員は淡々と述べた。
 仮放免は働くことも、県外へ自由に移動することも許されない。健康保険にも入れない。そんな説明も受けた。日本で友達が増えるきっかけとなったサッカーの選手になる希望は、あっけなく打ち砕かれた。
 これは仕方がないことなのか。高校二年の社会の授業で人権について勉強し、気づいた。「自分の人権は保障されていないなって」。大学進学にも壁が立ちはだかった。法的に問題はなくても、自らの立場を伝えると数校から受験に難色を示された。
 理解ある大学が県外に見つかったのが救いだった。通学に必要な「一時旅行許可」を入管に申請し、県境を越える。在留資格がある親族から学費の援助を受け、国際関係や難民問題を熱心に学ぶ。「将来は国連で働き、取り残された人たちの役に立ちたい」
 新たな夢を抱く一方で、気がかりもある。政府が今秋にも法案の再提出を検討する入管難民法の改正だ。昨年の国会に出された法案は難民申請中の強制送還を可能としたため、世論の反対も受けて廃案となった。
 あの懸念が繰り返されるのでは−。政治の動きに男性は目を凝らすが、参院選で語られるのはウクライナ情勢に端を発した防衛力強化の是非ばかり。クルド人を長年支援してきた市民団体の松沢秀延さん(74)は「日本の難民の扱いに世界が目を向けている。この選挙でもっと活発に議論すべきだ」と求める。
 昨年の日本の難民認定数は七十四人にとどまり、欧米に比べてはるかに少ない。「難民鎖国」と呼ばれるこの国を「第二の母国」と慕う男性は言う。「小学生の弟が大きくなったとき、制度によって夢を諦めないでいい社会になっていてほしい。望むのはそれだけです」(近藤統義)

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