「どうしてサイレンを鳴らさなかった」遺族の女性、募る疑問 熱海土石流から1年 孫と悲しみに耐える日々

2022年7月4日 11時29分
 静岡県熱海市の土石流災害発生から1年となった3日、遺族らでつくる被害者の会が県と市に損害賠償請求訴訟を起こすと明らかにした記者会見の席で、涙を浮かべて「原因究明を」と訴えた女性がいる。娘の西沢友紀さん=当時(44)=を亡くした小磯洋子さん(72)。悲しみに打ちひしがれながらも、残された孫娘を「娘の代わりに見守る」と決意している。(佐々木勇輝)

土石流災害犠牲者追悼式で献花に向かう小磯洋子さん=3日、熱海市の伊豆山小で

 「こうして活動を続けるのは、娘が生きていたことを知ってほしいから」。被災現場を背にした会見場で小磯さんの声は、悲しみと怒りで震えていた。最愛の娘を失って1年間、災害の原因が見えない状況にいらだちを募らせ続けてきた。
 疑問が多く残っている。被害を拡大させたとされる盛り土の存在が住民に知らされていなかったこと、土砂が迫る30分も前に駆けつけた消防隊員が「逃げろ」と言わなかったこと、信頼していた市に、裏切られたように感じること。「あのとき、どうして(避難指示の)サイレンを鳴らさなかったのでしょうか」

記者会見で熱海市の責任について話す小磯洋子さん(右端)=3日、熱海市伊豆山で

 1年前、「土砂で建物がもうありません」という救助隊員の言葉に絶望した。自宅から50メートル先の友紀さんのアパートに土砂が流入。孫娘を窓から逃がし、自分も避難しようとした友紀さんは、崩れた2階部分の下敷きになった。「娘は何で死んだのか、今も分かってないと思う」。変わり果てた娘との再会は、2週間後。すぐに火葬することになり「触ることも、抱きしめることもできなかった」。その日からの記憶はおぼろげだ。
 発災から約1カ月後、被害者の会が発足した。最初は入会しなかったが、原因を知りたい思いを諦めきれず、瀬下雄史会長(54)に連絡した。信頼できる人だと感じ、入会を決めた。
 一方で、孫である友紀さんの長女(5つ)は、今も苦しみ続けている。孫娘は父親と神奈川県湯河原町の避難住宅で暮らす。
 「この前抱っこしたら、『もっとぎゅっとして』って。きっと母親が恋しいんです」。隣室で暮らす小磯さんは食事の世話などで一緒の時間が多い。ただ、当時の映像がテレビで流れたり、雨の音がしたりするたび、「もうやめて」と悲痛な声で訴えるという。

被災地で発生時刻に黙とうする消防団員ら=3日、静岡県熱海市伊豆山で

 原因究明が果たされるのは、何年先か分からない。悲しみの日々は続くが「(孫娘には)誰にも遠慮しないで生きてほしい。独り立ちできるまでは、見守ってやりたい」。ぬぐってもぬぐっても、涙はあふれた。
 ◇
 土石流災害では、災害関連死を含む27人が亡くなり、今も1人が行方不明となっている。被害者の会は3日、盛り土を長期間にわたり放置させたり、避難指示を出さなかったりした行政対応に過失があったとして、県と市に損害賠償を求める訴訟を8月末にも起こすと明らかにした。

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