<参院選2022>進化するSNS選挙戦 文字よりも視覚…「短く、分かりやすい」発信に懸念も

2022年7月6日 17時00分
 今や世論を動かす影響力を持ってきたSNSの進化は、選挙戦のあり方も変えつつある。今回の参院選では、より短く、分かりやすく、文字よりも視覚に訴えるメッセージで支持を広げようとする動きが見られる。国政選挙や地方選挙でのデータ分析を手がけるSNSアナリストの中村佳美さんは「SNS発信は地上戦を上回る重要度になってきている。やっていないと選挙戦を落とす時代に突入してきた」と指摘する。(デジタル編集部・瀧田健司)

◆流れが変わった2019年参院選

 ネット選挙は2013年の参院選で解禁された当初、街頭演説や集会の告知などが目立っていた。双方向性を生かした有権者とのやりとりは盛り上がっておらず、あまり票に結びつかないという見方もあった。だが、それから9年で状況は変わった。今回の参院選でも、無党派層にまで幅広く支持を広げようとSNS上での「空中戦」は進化を見せている。
 「2019年の参院選では、自民党の山田太郎氏が約54万票、れいわ新選組の山本太郎氏が約99万票を獲得し、NHK党も議席を取ったという衝撃があった。ネットを活用しないとむしろ票を落としかねないという危機感が、前回の参院選で共有されたのでは」。中村さんは、そう指摘する。
 さらに、コロナ禍では情報が錯綜し、人との接触も大幅に減少。ネット上から情報を取りに行くという考え方が有権者側にも根付いたことで、政治や選挙の分野でも、今後さらにSNSでの情報発信の重要度が高まる可能性があるという。
 世間のトレンドでは、Instagramの「リール」やYouTubeの「ショート」といった、スマホ向けの縦長サイズで作られた1分未満の短い動画が人気を集めている。このため政治家の発信でも、これらの機能を駆使して見る側の有権者を意識した発信が目立ち始めた。この参院選で政党や候補者のSNSアカウントでは、派手なテロップやBGMなどを取り入れた短い尺の動画や、親しみやすさをアピールする画像が数多く投稿されている。

◆各党のSNS戦国時代が勃発か

 自民党は、岸田文雄首相が応援に駆けつけた選挙区別の動画を作成。細かく編集されたカットに各地の風景を織り交ぜ、約40秒にまとめている。立憲民主党はInstagramにはイラストを中心に、YouTubeには候補者の動画を中心に投稿するなど、各SNSを使い分ける。公明党はYouTubeのショート動画を多用。山口那津男代表の演説にテンポ良くテロップを入れながら主張を伝えている。
 日本維新の会はYouTubeで「参議院選挙特番」を連日生配信。Instagramでも吉村洋文副代表の知名度を生かして政策を訴える。共産党は「未来は選べる」をキーワードに動画などで発信。Twitterでは「当落線上の大接戦」というハッシュタグで支持を呼びかける。国民民主党は動画で玉木雄一郎代表を前面に押し出す。候補者とともに漫画を使った動画でも党の政策を訴える。
 れいわ新撰組は「Twitterをれいわで埋め尽くせ」を合言葉に、トレンド入りを狙う。YouTubeでは街頭演説を数多くライブ配信する。社民党は縦の動画が中心。街頭演説や質問に答える様子を各SNSに投稿し、若者に人気のTikTokも使う。NHK党はチャンネル登録者数が多い立花孝志党首のYouTubeチャンネルや、他の人気YouTuberらとコラボしながら空中戦を繰り広げる。

◆政治家本人の人間性を偽ることも

 衆院選と比べて選挙区が広い参院選では、空中戦の効果がより大きいとされる。一方で、SNSでの「バズりやすさ」が求められた結果、難しい政策よりも雰囲気やイメージが重視されるという懸念がある。中村さんは「有権者に対して、政治家側は分かりやすく伝えようとする。こういう見せ方をすれば支持が広がるというイメージキャラクターが作れるようになると、政治家本人の人間性を偽ることもできるようになる」と警鐘を鳴らす。その上で「日常的に自分から情報を取りに行き、情報をバランス良く見られるか、異なる意見にも触れるよう心がける必要がある」と指摘する。

ー中村さんとの一問一答は以下の通り

中村佳美
なかむら・よしみ

1992年、高知県出身。大学卒業後、国会議員秘書を経て、国政選挙や統一地方選にSNSスタッフとして携わった経験から、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に入学し、2019年から「政治のSNS活用」を調査研究。国政選挙や地方選挙、米国大統領選などで候補者や政治家のTwitter、Facebook、Instagram、YouTubeなどを中心としたデータを収集し、分析してきた。大学院修了後、主に政治機関や選挙・パブリック現場のSNS広報支援、データ分析を手がける「ネットコミュニケーション研究所」を2021年に設立。

◆拡散力のTwitter 炎上リスクが低いInstagram

-政治家のSNSでの発信について、最近の傾向は。
 前回の衆院選から、徐々にInstagramの活用が増えている印象。世間のトレンドとしてショート動画を見る傾向が高まっていることもあり、FacebookやInstagramでも、政治家側がリールなど縦動画を使いこなすことが求められてきた。
 以前はじっくり政策を語るYouTubeでの横動画が多かったが、最近はスクロールして見てもらえる短い縦動画が作られる傾向がある。縦動画では、政治家の人間性を伝えようとしている発信例が多い。
 静止画に関しても以前は、横長のサイズが多かったが、最近は正方形の画像が多くなっている。文章よりも、一目見て伝わる写真やショート動画で訴えようとする投稿が増えている。
-Twitterでは炎上が多い。Instagramの利用が増えた要因は炎上リスクを避けるためか。
 前提として、TwitterとともにInstagramも活用が増えているという状況。まだデータ上として、InstagramはTwitterの代替になっていない。若い人から順に導入が増えている状況なので、一概にも炎上リスクを避けるためとはいえない。
 ただ、SNS上の機能性の面として、Instagramは拡散性に優れておらず、ハッシュタグをつけないと広がりにくいというデメリットはあるが、逆にTwitterと比べれば炎上リスクが低い。140字以上書けるので誤解なくメッセージを伝えられる利点はあるので、今後炎上を避ける目的の政治家がInstagramに力を入れていく可能性はある。

◆縦動画にも違い Facebookは小選挙区向き

-YouTubeによる動画も増えているか。
 Instagramと比べ、YouTubeの仕様は幅広い世代に届けやすい。確かに政治家のYouTube使用率は増えているが、視聴回数が増えているかは別問題。1日あたりの動画視聴数は200回程度が多い。視聴回数を稼げている候補者は、元々YouTuberとしてチャンネル登録者数が多い人。あとは公明党。一定の組織力があるので、ものすごい勢いで再生回数が伸びる。
-縦長の動画という点では、若者に人気のTikTokが選挙で活用される可能性は。
 YouTubeとの相関関係が高く、れいわ新選組や公明党、NHK党など、YouTubeで人気が高い政党ほど相性が良い。ただ、現段階で国内での選挙での広がりは難しい。若者が多いTikTok利用者の中に、政治に関心がある層がどれだけいるか。
 Instagramのリール動画とは違い、TikTokは短い時間でいかにテンポ良く、おもしろい動画を作れるかが大切。そういうプラットフォームで、選挙や政策のコンテンツを作るのはまだまだ発展途上。票を掘り起こすツールというよりも、候補者の顔と名前を覚えてもらう目的、政党や候補者のSNS発信力の高さをアピールするためのツールという位置付け。
 現段階では、ショート動画作成の得意な人が集まっている。しかし今後、候補者がどのようにこれらのツールを使いこなしていくかは期待できるのではないか。
-SNSの中では年齢層が高いFacebookは、まだまだ選挙で影響力があるか。
 2020年時点だと、国会議員のSNS利用率ではFacebookが最も高かった。衆院選の小選挙区であればFacebookは、機能の特性上、まだまだ影響力を発揮すると思われる。ただ、参院選の全国比例区や全県選挙区では、今までの後援会組織やFacebookだけでは難しいと思う。もはや影響力ではTwitterやInstagramにかなわない可能性が出てきた。
 かつてFacebookは支援者との交換ノートのように、活動報告を載せ組織を結束させていくような場所だった。今はより浮動票や無党派層に響かせるSNS活用が求められている。Facebookで支持者を増やすのは、なかなか難しい時代にある。

◆2019年参院選に起きた衝撃

-選挙戦でのSNSの重要度は高まってきていると言えるか。
 ネット選挙は2013年の開始時からしばらく伸び悩んだ。当時は「ネットを頑張るなら他を頑張ったほうがいいよね」という空気感が漂っていた。しかし、2017年の衆院選では立ち上げ当時の立憲民主党がネット選挙に力を入れて躍進。さらに2019年の参院選では、自民党の山田太郎氏が約54万票を獲得したほか、れいわ新選組も、2013年頃の共産党カクサン部が仕掛けていたようにTwitterでトレンド入りを狙う戦略で、山本太郎氏が比例区で約99万票、NHK党も議席を取ったという衝撃があった。
 これは、政治家のネット選挙が非常に強くなった典型的ケース。ネットを活用しないとむしろ票を落としかねないという危機感は、2019 年の参院選では共有されたのではないか。思った以上にネットが伸びたのでやらざる得なくなった。やっていないと逆に選挙戦を落とす時代に突入した。これは、政治家にとっては、地域の祭りや新年会に行くのと同じで、“減点方式”であり、やらざるを得ない状況に変化した。
 また、2021年の衆院選に関しては、議席を伸ばした維新は、地上戦がメインではあるものの、SNSでの空中戦にも手を抜かなかった。テレビでの出演が多く知名度が高かった松井一郎氏と吉村洋文氏の2人を前面に押し出して動画発信する戦略を取った。また、最近では、政党のテレビCMの他に国民民主党のようにYouTube広告やネットに力を入れる政党もある。SNSは選挙戦略の中で多くの比重を占めるようになってきた。
 衆院の小選挙区では、どちらかといえば地上戦が重要だが、参院の比例区のように全国のフォロワーが選挙権を持っている選挙制度や、浮動票を獲得する必要がある新人候補者は、SNSと相性が良い。
-SNSでの発信はコロナ禍の影響もあったか。
 2019年の参院選など、コロナ前からの流れもあるので一概に言えないが、コロナ禍で社会全体のDX(デジタル技術による変革)が進んだことによって、それに応じて選挙でもオンライン集会やリモート出演など、ネットの利用はより加速し、底上げされ、活用が強まった可能性は高い。
 また、ユーザーの目や耳も肥えてきた。コロナでは情報が錯綜し、どれが正しい情報か分からない時期があった。国民が自分から情報を取りに行く姿勢が根付いた部分は大きい。また、候補者も、有権者とネット上でコミュニケーションを取り、どういった政策が求められ、どういった期待があるかをネットから拾うようになった。そういった姿勢は根付いてきたと考える。
 加えて、コロナ禍では首長をはじめとする政治家の市民に対する姿勢が顕著に表れるようになった。コロナ前は空中戦と地上戦では、圧倒的に地上戦に重きが置かれていたが、コロナ禍で五分五分になってきた。今は地上戦を上回るほどの重要度にもなってきていると思う。

◆有権者にとっては諸刃の剣にも

-ネット選挙が拡大されることで、有権者にとってのメリットは。
 一つは、政治もしくは、候補者の見える化だと考える。選挙が始まると候補者同士の比較が始まる。ネット選挙に関しても候補者は比較されやすい。理由の一つは、候補者のSNSの発信を通じて、候補者の政治姿勢が垣間見えるから。例えば、市民目線で発信しているのかどうか、選挙戦の前からコンスタントに発信をしていたのか、対話を意識した候補者なのか、そういった部分だけでも、SNSを通じて政治家を可視化できる。政治家の発信した内容やアーカイブ記録が残ることも大きい。ずっとログを辿ると、その人がどういう信念だとか、曲げずに取り組んできたのか、候補者が何を成しているのか、何を考えているか、そういったことも分かる。政治家として信頼できるかどうか、一貫性があるとか。
 ある意味で、SNSは政治家を丸裸にできる。有権者にとって投票する際の検討材料として、メリットはあるのではないか。今後も、SNSは政治家を鍛えるし、国民もSNSを通じて政治家や候補者を見る目が養われていくと考える。
 また、選挙以外でも、政治家のSNS活用が進むことによって、生の国会のやりとりが見られる機会が増えるなど、生情報(一次情報)に直接アクセスできるメリットがある。政治家の発信がインターネットという巨大な海の中に落ちてくるようになり、政治に関する情報リッチな社会にもつながるだろう。
 例えば、ワクチンなどの情報が即時性を持って手に入れられるようになった。かつ、ユーザーは政治家と直接やりとりできる。また、政治家やユーザーがインターネットで発信をして、世論の声を高めることによって、政策実現につながっていくケースも増えた。政治のSNS活用が進むと、若い世代にとって政治に接触する機会が増える可能性も秘めている。
-その一方で、デメリットは。
 SNS活用は、政治家の素顔が出ることで、政治家の本質が顕著に丸裸になる反面、SNSを使って政治家のブランディングもできてしまう。有権者に対して、政治家側は分かりやすく伝えようとする。より鮮やかに、より候補者の写真をきれいに、より分かりやすく伝えるショート動画を作成するという努力をする。こういう見せ方をすれば支持が広がるというイメージキャラクターが作れるようになると、政治家本人の人間性を偽ることもできるようになり、当選後のギャップを生む。
 また、ネット選挙が進むと、海外の大統領選挙のように、市民はSNSに溢れる虚偽の情報にさらされる可能性は出てくる。海外の大きな選挙では、偽情報を利用した選挙運動は広がり、当然のように行われている。ネット選挙が進んだ場合には、真実か、フェイクニュースかを見極めることやファクトチェックを試みる仕組みは、今後大きな課題となってくるだろう。
 また、自分の好きなものしか見なくなるSNSの世界は、不都合な意見が遮断されやすくなる。日常的に自分から情報を取りに行き、情報をバランス良く見られるか、異なる意見にも触れるよう心がける必要があることが重要になってくる。

◆SNSの選挙は女性候補に有利?

候補者の演説の様子を撮影するスタッフ(一部画像処理)=東京都内で

-今後、ネット選挙はどのような展開が考えられるか。
 SNSでの選挙は、国民がTwitterやInstagramに飽きない限り、政治家も続けていかなければならないだろう。SNS発信が政治家の仕事ではなくても、人と接触できないコロナ禍の時期を過ごし、公人として発信する役割が生じてきた。今回の参院選は、直近の2021年衆院選や2019年参院選と比較すると、公示前の候補者のツイート数も、フォロワー数も増えている。政治家側としては活発で盛り上がっているという傾向がある。
 また、傾向として、女性の候補者の数字の伸びが良い。SNSが投票につながるという因果関係があるとするならば、女性にとって有利な環境になる可能性があるかもしれない。
 ネット空間の中でのフォロワーの多さは、政治家としての人気の高さを構成する一つの指標と捉えられ、リアルの場の印象においても、「発言力・影響力がある〇〇議員」「ネットでの支持が高い政党」と本人や政党のイメージ形成に作用する可能性もある。
 SNSを利用するのは当たり前の時代となった今、より幅広い層のユーザーからの人気を得る(票につなげる)ためのコンテンツを作るセルフプロデュース力が求められるのはもちろんのこと、政治家一人一人がSNSの特色を活かした情報発信が問われる時代になりつつあるのかもしれない。今後ますます、若い世代や無党派層を意識したSNSのトレンドを取り入れ、質の高いネットの発信力を重視したSNS活用に力を入れる政治家は増えていく展開になるだろう。

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