山間部医療 派遣が命綱 愛知から長野へ診察掛け持ち

2022年7月5日 09時05分
 医療費の削減などを目的に国が病院の再編・統合を進める中、コロナ下で脆弱(ぜいじゃく)さが露呈した日本の医療供給体制。地域や診療科ごとの医師の偏在は著しく、特に山間部などでは安定して医療を提供することが今後ますます難しくなると予想される。患者にとって医療はまさに命綱だが、現場は自助努力の限界を訴える。参院選を機に医療のあるべき姿を考える。 (細川暁子、植木創太)
 眼下に天竜川を望む長野県南部の阿南町。六月中旬の水曜午後三時半、中心部に位置する県立阿南病院に一人の医師が駆け込んできた。同病院から西に約百三十キロ。愛知県長久手市の愛知医科大泌尿器科学講座の梶川圭史さん(38)だ。
 本来、泌尿器科の診察は午後二時から。しかし、この日は同大の外来診療が長引いた。三十人を診察後、車に飛び乗り、約二時間をかけてたどりついたという。文句を言う患者はいない。三カ月に一度受診する同町の奥田修一さん(86)は「泌尿器科はここだけ。愛知から来てくれて本当にありがたい」と話す。
 ベッド数八十五床の同病院の診療圏は一町四村、飯田市の一部と広大だ=地図。そうした中、地域住民の命を守る中核病院として、年間延べ約六万人を診察。二十四時間三百六十五日、救急患者も受け入れる。高齢化率が著しく、患者に占める七十歳以上の割合は七割を超える。
 しかし、常勤医はわずか八人。内科や外科など全八科のうち、泌尿器科を含む四科はゼロだ。山あいの病院での勤務が敬遠されるためで、他の病院からの医師派遣が頼みの綱。愛知医科大からの派遣は田中雅人院長(66)が同大出身である縁で、二〇一五年から続く。

山あいにある阿南病院の田中雅人院長。救急患者を受け入れるヘリポートもある=長野県阿南町で

 週一回の泌尿器科の診察は、月二〜三回を同大の医師、残り月二回は約三十キロ離れた飯田市立病院の医師が担う。梶川さんは阿南病院で十人を診た後、同大へ戻って夜間の当直をこなした。「年を取るほど泌尿器疾患の患者は増える。泌尿器科医の数自体が少ない中、県境をまたいででも、高齢化率が高い地域を支えることは不可欠」と話す。
 ただでさえ人繰りが厳しいが、同病院は寝たきりなど通院が難しい患者約三十人の訪問診療も実施。昨年四月からは週に一度、同病院から約二十キロ離れた売木(うるぎ)村の診療所への医師派遣も始めた。村が雇用していた常勤医が退職したためだ。一回につき約二十人が受診し、村からは回数を増やすよう依頼があったものの、とても無理。そこで今年五月から、新たに週一回、同病院と診療所を結んでオンライン診療を行っている。
 隣接する愛知県豊根村から通う患者も。腎臓疾患を患う七十代女性は週三日、片道一時間をかけてやってきて、人工透析を受けている。かかりつけだった同県東栄町の東栄医療センターが二年前、赤字経営を理由に透析を中止したからだ。「透析は命綱」と訴える。
 医療資源を効率的に配置することは全国的な課題だ。国は一九年、四百二十四の公立・公的病院を名指しして再編や統合を促した。効率的な運用や病院間の役割分担、患者の需要にどう応えるのか−。どの病院も頭を抱えている。
 勤務医の時間外労働に対する上限規制適用が二四年度に迫る。医療現場も働き方改革が叫ばれる中、他病院からの医師派遣がどこまで維持されるかは未知数だ。「国を挙げて地域による医師の偏在を是正することが急務」と田中院長は訴える。誰一人取り残さない医療政策が求められている。

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