東京タワーのふもと 三康図書館 公共図書館の源流 120年の歴史

2022年7月6日 07時07分

 古い本が並ぶ書庫を案内する新屋朝貴さん=いずれも港区で

 誰でも知っている東京タワーのほぼ真下に、ほとんど知られていない民間図書館がある。三康(さんこう)図書館(港区芝公園)。前身から数えて今年で百二十年の歴史があり、識者から「公共図書館の源流」とも称される。節目の年に知名度向上へ反転攻勢を図っているという施設を訪ねた。

三康図書館が入る複合ビル前の掲示板に掲げられた、利用を呼びかけるポスター

 「ここに誰でも使える図書館があります」。そんなチラシが正面の掲示板に張られていた。入り口へ向かうと今度は「浄土宗宗務庁」の看板が…。
 「入りにくいと、よく言われます。実際に以前まで一カ月の来館者は二十人くらいでした」。広報担当の新屋朝貴(しんやともき)さん(32)は隠さず話す。「でも図書館である以上は多くの方に使ってもらわないと。広報や発信も強化中で、四月は百人、五月は百三十人と来館者も増えてきた」と続けた。

東京タワーのすぐ近くにある三康図書館=港区で

 運営するのは公益財団法人「三康文化研究所」。役員には隣接する増上寺とプリンスホテル系列の西武鉄道関係者が名を連ねる。一九五〇年代、土地を巡る両者の争いがあったが、仲直りして共同で図書館事業を手掛けることにした。六四年に開所式。運営費は西武鉄道の寄付で賄っている。
 現在の建物「明照会館」は七九年完成。四階建てで、図書館は一階。四階に浄土宗総合研究所、三階は宗教法人浄土宗、二階は全日本仏教会という異色の複合ビルだ。

針の穴が残る伊能忠敬実測原図

 図書館は二十六万冊を所蔵する。うち十八万冊は現在の千代田区にあった大橋図書館から引き継いだものだという。
 大橋図書館は一九〇二(明治三十五)年、雑誌を中心に発刊していた明治期を代表する出版社「博文館」がつくった。当時の東京市にはまだ自治体の公共図書館がなく、民衆に大人気だった。市議も評判に着目。公共図書館の整備を行政に促す契機になった。
 関東大震災でいったん焼失したが、再建された。日記や手帳販売を手掛ける、系列の「博文館新社」(荒川区)ホームページによると、博文館は戦後の四七年、有力者の公職追放に伴って廃業。数年後に大橋図書館も閉鎖。創業者の大橋家が新宿区内の私邸に保管した蔵書を、五〇年代に西武鉄道創設者の堤康次郎さんが譲り受けた。

貴重な古典資料9000点

 「太陽」「少年世界」ー。三康図書館には博文館が発行した人気雑誌を中心に、戦前の書籍が多数ある。古典資料も、江戸名所図会の下書き絵、方丈記絵巻、伊能忠敬実測原図など約九千点ある。「重要文化財が眠っている可能性もある」と新屋さんは言う。
 以前から「知る人ぞ知る」図書館ではあった。なぜ一般の人にほとんど知られてこなかったのか。「職員は戦前からの古い資料も検索できるようデータベース化の作業などに追われ、対外発信をほとんどしてこなかった」と新屋さんは話す。
 だが、大橋図書館から数えて百二十年の今年は発信強化へ転換。六月二十五日には大橋図書館をひもとく記念の講演会を開いた。今月三十日も「江戸時代の料理本の魅力」という講演会を計画し、参加者を募っている。
 閲覧室もパソコンを使えるよう電源とWi−Fiを整備。百円の入館料で一日滞在できる。「ワーキングスペースとしてもお薦め」と新屋さんは来館者増へ意欲満々に言う。
 「図書館が当たり前ではなかった時代、大人から子どもまでたくさんのサービスをしてきた大橋図書館。その精神をしっかり受け継ぐ図書館にしたい」
 開館は平日のみで、コロナ下の当面は午前十時半〜午後四時半。三十日の講演会など、問い合わせは三康図書館=電03(3431)6073=へ。
 文・井上靖史/写真・五十嵐文人、井上靖史
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