揺らぐ「科学技術立国」 不安定雇用の若手研究者が増加 参院選でも振興策が論点に

2022年7月6日 12時00分
 政府が掲げる「科学技術立国の実現」は土台が揺らいでいる。不安定な任期付き雇用の若手研究者が増え、博士課程の入学者は減少傾向だ。自らも任期付き雇用の物理学者馬場ばんば基彰さん(40)は危機感から「研究者と社会の対話が必要」とNPO法人日本科学振興協会(JAASジャース)を設立し、政治家にアプローチを始めた。「若手研究者をサポートしてほしい」と訴える。(増井のぞみ)

「若手研究者のサポートを」と話す馬場基彰さん

 馬場さんは2009年、大阪大基礎工学研究科で博士号を取得。光と物質の相互作用の現象を研究し、日本やフランスなど6カ所の職場を転々とした。「任期が切れる2年前から就職活動をするので、研究に集中しづらい」。21年に京都大特定准教授に就いたが、任期は最長5年だ。
 活動開始は18年、自身の就職活動で不採用が続いた頃。「若手研究者の支援」をうたう元政治家のブログを見てメールを送ると、「現場の研究者の声を集めて」と返ってきたのがきっかけだった。
 自民党の船田はじめ衆院議員を紹介されて実情を話したが、「個人レベルでは難しい。団体をつくろう」と決めた。手本は米科学誌「サイエンス」を出版する米科学振興協会(AAASトリプルエーエス)。会員12万人超で、科学者らを政府や国会議員の事務所に派遣し、科学技術政策の立案に貢献している。
 この日本版として2月にNPO法人を設立。コロナ禍の中、ウェブ会議で呼びかけ、約200人の会員が集まった。大学や企業の研究者のほか、学生や市民も参加できる。

研究者らが議論を交わした総会の一場面=2022年6月19日、東京都江東区の東京国際交流館プラザ平成で(JAAS提供)

 6月18〜24日に初の総会を開き、ウェブで配信。文部科学省の官僚、与野党の議員も登壇した。入院中の船田議員は「若手研究者に期限なしのポストを与え、落ち着いて研究を続けられないかと考えている」と祝辞を寄せた。
 討論会では、大学の研究室を主宰する女性が「研究する学生がいるのに、私の産休中は研究費を執行できない。仕組みを変えてください」と訴えた。これに立憲民主党の吉田晴美衆院議員は「女性研究者の現状は深刻だ。研究とライフイベントのどっちを取るかという話ではない」と応じた。
 男女問わず、安定した職に就くまで結婚や出産を先延ばしする研究者は多い。二児の父の馬場さんは長期戦を覚悟しつつ「科学を一部の政治家だけでなく社会全体に応援してもらえるようにしたい」と意気込む。

◆国立大40歳未満教員は68%が「任期付き」

 文部科学省によると、40歳未満の国立大教員で任期付きの割合は2007年度の38.7%に対し、21年度は68.2%と約30ポイントも増えた。背景に、政府が研究費配分の「選択と集中」を掲げ、人件費に充てられる国立大の運営交付金を減らしていることや、各大学が教員の定年を延ばしていることがあるという。
 運営交付金は22年度予算で、国立大を法人化した18年前より13%減。これを補うため、民間などから得る「競争的研究費」は期限が限られ、研究者はプロジェクトごとに任期付きで雇われる傾向が強い。
 また教員の定年延長で、任期のないポストは空きが出にくくなっている。
 研究者を目指す大学院博士課程の入学者は03年度の約1万8000人を頂点に減少傾向で、21年度は約1万5000人。研究成果にも影響し、直近20年間の注目論文数の順位で、日本は4位から10位に後退した。
 このため、政府は3月に10兆円規模の大学支援ファンドを創設。運用益のうち年2800億円を数校に配り、年200億円を博士課程の学生の生活支援に充てる計画だが、見込み通りに運用できるかは未知数だ。
 参院選では、与野党とも公約に科学技術の振興策を掲げている。

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