植民地支配から解放されたら軍の独裁…民主主義への道遠く 反政府デモは即弾圧
2022年7月7日 12時00分
<近くて遠い国・アルジェリア独立60年(下)>
何十台もの戦車が整然と目抜き通りを進み、国旗を手にした沿道の市民から歓声が上がる。アルジェリアの首都アルジェ。フランスからの独立60年を祝う軍事パレードは5日、「かつてない規模」(アルジェリア政府)で盛大に行われ、軍の威信を誇示した。
独立戦争を戦った元兵士ムハンマド・ターヘル(87)は同市内で仏植民地時代を思い返していた。「何もかもが昔よりはるかにマシだ。人間らしく生きられる」
ターヘルは1954年に独立戦争に加わった。10歳のときに親友が仏軍に殺害され、「フランスと戦う日を待ち望んでいた」。植民地支配下に平等はなく、自分の家も土地も、権利もなかったという。ターヘルら多くの若者が、人間としての尊厳を求めて戦った。
独立とともに、独立戦争を率いたアルジェリア民族解放戦線(FLN)の政権が誕生。「軍はフランスに抵抗した最初の勢力。人々は軍を信じ、そして軍はそれに応えた」。元兵士の歴史家モハメド・ダッバー(85)が説明するように、130年続いた植民地支配からの解放は軍によって実現した。結果として、独立後は軍に権力が集中する構図がつくられ、現在まで軍が政治に強い影響力を持つ。
「独立後のアルジェリアは常に独裁的な政府に支配されてきた」とアルジェリア政治史の専門家アメール・ラヘイラ(69)は指摘する。軍は政治の多様性を許さず、91年の総選挙でイスラム原理主義政党が大勝した際はクーデターで政権を奪い返した。一握りの軍人や政治家に権力や富が集中し、天然ガスなどの豊かな資源を巡って汚職がまん延した。ラヘイラは「腐敗政治は国の富を浪費し、発展を妨げた。政治経験のない軍が政府を率い、民主主義が育たなかった」と話す。
独立後の腐敗政治しか知らない若者は、軍主導の政治を変えようともがく。北部シュレフのムスタファ(28)は2019年、反政府運動「ヒラク」に加わった。当時20年続いていたブーテフリカ独裁政権の退陣を求め、仲間とともに横断幕を掲げて行進した。「求めるのは市民による法治国家。軍の影響力を取り除きたかった」と振り返る。
昨年6月、ムスタファは突然路上で逮捕された。交流サイト(SNS)で政府を批判したとして1週間拘束され、家宅捜索も受けた。運動に加わった300人近い若者も拘束され、ヒラク運動はほぼ消滅した。有無を言わせず批判を抑え付ける政府の姿勢に「フランスの支配も受け入れられないが、軍政も受け入れられない」と憤る。
パリに住む活動家ヤヒア・マフユーバ(43)も同じ思いだ。ヒラク運動に参加したため逮捕状が出たと聞き、すぐパリに逃れた。フランスでは反政府デモが許され、政府を批判しても逮捕されない。「皮肉なことだが、アルジェリアにはない民主主義が、かつて私たちを支配したフランスにはある」
(敬称略。この連載はパリ・谷悠己、カイロ・蜘手美鶴が担当しました)
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