進まない補助犬への理解 産婦人科が同伴拒否、娘やむなく転院

2019年11月2日 16時00分

病院への入室を拒否された平野友明さんと介助犬のタフィー=金沢市で

 電動車いすで生活する男性が、長女の通う石川県白山市内の病院から、介助犬を連れて病院に入ることを拒まれた。男性の生活を支える介助犬の同伴拒否は、障害者差別解消法で不当な差別として禁止されている。男性の家族らは法律の趣旨を説明したが、病院は対応を改めず付き添うことができなかったため、長女は転院した。 (小川祥)
 男性は金沢市のボランティア団体代表平野友明さん(51)。二〇〇九年三月にケーブルテレビ設置の業務中に屋根から転落し、胸から下にまひが残った。妻の克美さん(51)の介助がなければ外出も難しかったが、一二年にラブラドルレトリバーの介助犬「タフィー」を迎えてからはタフィーがドアを開けたり、かばんから財布を取り出したりして買い物できるように。「タフィーは私の体の一部。自分そのものです」
 平野さんの長女の後藤美咲さん(26)は妊娠に気づき三月、白山市の産婦人科病院で診察を受けた。夫(27)は仕事で忙しく、両親に付き添ってほしいと考え、父親の介助犬が入っていいか尋ねたが、病院から「犬は入れない」と言われた。
 克美さんらは、介助犬は清潔でほえたりしないよう訓練されていると説明。五月には、県障害保健福祉課の担当者とNPO法人「日本補助犬情報センター」に相談し、病院と交渉してもらったが、理解を得られなかった。長女は介助犬を同伴できる金沢市内の別の医療機関に転院し、十月十六日に出産した。
 白山市の病院は本紙の取材に、職員が差別解消法を知らなかったと説明した上で「コメントは差し控えたい」としている。
 石川県立中央病院(金沢市)は、補助犬を伴って入室できることを利用者に周知するため、病院内の掲示板にパンフレットを張っている。金沢市立病院も補助犬の入室を認めている。

補助犬が院内に入れることを説明するパンフレットが貼られた掲示板=金沢市の石川県立中央病院で

◆施設でお断り 6割が「経験」

 公共性の高い施設や交通機関での身体障害者補助犬の受け入れ拒否は、全国で相次ぐ。二〇二〇年の東京五輪・パラリンピックに向けて政府が掲げる共生社会の実現は遠い。
 日本盲導犬協会の差別実態調査では、回答した全国の利用者二百六人のうち六割に当たる百二十三人が、昨年一年間で盲導犬の受け入れ拒否を受けていた。
 神奈川県内の六十代女性は、福岡県内の九十代の父親が危篤との知らせを受け、独立行政法人が運営する福岡県の病院を訪れたが、盲導犬を伴っての入室を拒否された。病院は「他の患者の迷惑になる」と主張した。協会が電話で法律の趣旨を説明し続けると、四日後に盲導犬の入室を認めて謝罪した。
 石川県内では一六年三月、金沢市内で盲導犬を連れた男性がタクシーに乗車を拒否された。北陸信越運輸局石川運輸支局によると、運転手は車内が汚れると乗車を拒否。支局は同年五月、道路運送法の引き受け義務違反で、このタクシー会社の車四台を十四日間、使用停止とした。
 NPO法人「日本補助犬情報センター」が一八年十一月、飲食や宿泊、医療・福祉業に従事する二千人にアンケートし、千二百四十一人から回答を得たところ、補助犬を伴った人への対応について「知らない」と答えたのは76%。「少し知っている」は18%、「よく知っている」は6%だった。 (小川祥、城島建治)

◆差別解消法違反 遠い共生社会

<障害者政策に詳しい慶応大の岡原正幸教授(社会学)の話> 障害者差別解消法が、十分に理解されていない現状が明らかになった。病院経営が一般の民間業者とは異なり、公共性の高い存在であることを経営者は肝に銘じなくてはならない。介助犬への無理解という次元ではなく、法律違反である。障害者本人の不利益だけでなく、娘さんの転院という事態も引き起こした。このようなことが続くなら、日本が目指す共生社会は絵に描いた餅でしかない。 
<身体障害者補助犬> 手や足が不自由な人を支える介助犬、目が不自由な人を支える盲導犬、耳が不自由な人を支える聴導犬を指す。指示に従うよう訓練を受け、一定水準をクリアして補助犬になる。犬は定期的に健康診断を受けている。厚生労働省によると、今年3月現在、全国の介助犬は65頭、盲導犬は928頭、聴導犬は68頭。
<障害者差別解消法> 2016年4月に施行され、介助犬や盲導犬の入室拒否を不当な差別と位置づけ、禁止している。法は障害のある人もない人も共に暮らせる社会の実現を目的とする。国の機関、地方自治体、民間事業者に、障害を理由とした差別を禁止し、合理的配慮を義務づけた。

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