トリエンナーレ補助金不交付 文化庁の歴史 踏みにじる行為

2019年10月31日 02時00分

◆元文化庁文化部長・寺脇氏に聞く

 愛知県で開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」への補助金不交付を決めた文化庁への批判が広がり続けている。文化庁文化部長を務めた文部科学省OBの寺脇研京都造形芸術大客員教授=写真=が本紙のインタビューに応じ、「これまでの文化庁の努力を自ら踏みにじる行為だ」と述べた。 (聞き手・望月衣塑子)
 -宮田亮平文化庁長官は十五日の参院予算委員会で「私は(不交付を)決裁していない」と述べた。
 文化庁職員も今回の件で補助金を取りやめれば、どれほど大きな反響を呼ぶか当然分かっているはず。長官に隠れてやるのは考えられない。だから、宮田長官も「知らなかった」とは言わなかったのだろう。
 元東京芸術大学長で金工作家の宮田長官は不交付にいつでもストップをかけられるのに、ほっかむりをした。長官に民間の芸術家を登用するのは政治に唯々諾々と従うのではなく、文化や芸術の表現の自由を守るため。自分の最大の存在価値を放棄し、政治にひれ伏している。
 -二〇〇二年八月から三年七カ月、文化庁文化部長を務めた。
 その年の一月に文化庁長官になったのが心理学者の故・河合隼雄さん。「しょせん国が作った組織で、政府のプロパガンダに芸術を使おうとしてる」と文化庁に対して批判的だったリベラル派の文化人らと河合さんは次々に会い、理解や協力を呼び掛けていった。日本ペンクラブ会長だった故井上ひさしさんなども「河合さんが言うならば」と、理解を示すようになった。
 翌〇三年度に文化庁予算は初めて一千億円を突破。地域文化の振興も図られた。今回の補助金不交付は、こうした文化庁が長年積み上げてきた歴史や歩みを踏みにじる行為だ。
 -文化庁は〇八年、靖国神社を題材にしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」に所管法人が助成金を出したことを自民党議員に問題視され、事前試写会を開くよう配給協力・宣伝会社に求めたことが批判された。
 確かに批判は免れないが、このときは最後まで助成金不交付の要求には応じなかった。企画展が脅迫で展示中止に追い込まれたことが問題の本質なのに、あいちトリエンナーレ全体への補助金取りやめは脅迫自体を肯定することになりかねない。文化や芸術を振興させるべき文化庁が、こんなことで補助金をやめるなんてあってはならない。
 韓国の釜山国際映画祭では一四年、朴槿恵(パククネ)政権下で起きた客船の沈没事故を描く映画『ダイビング・ベル セウォル号の真実』の上映に、与党セヌリ党系の釜山市長が「政権批判だ」と抗議し、翌年から映画祭への補助金が大幅削減された。いま安倍政権は朴政権と同じようなことをしているのではないか。政治の暴走をいさめるべき官僚が忖度(そんたく)で発言できず、文化や芸術がゆがめられる状況が生まれている。

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