母国ベトナムにフグ食 捕食禁じる法律に風穴 愛称「フグちゃん」夢フクらむ

2022年7月15日 07時09分

調理師免許証を手にするリンさん。ふぐ調理師免許も取得している=本人提供

 フグを食べることが法律で禁じられている故郷のベトナムで、フグ食文化を広めたい−。日本の水産会社で働くヴゥ・テゥイ・リンさん(31)=清瀬市=は、そんな夢を追いかけている。フグにほれ込み、昨年に日本の「ふぐ調理師免許」を取得。夢の実現への足掛かりとして、ベトナムで年内にも、日本からの輸入品を調理するフグ専門レストランを開こうと奮闘中だ。

リンさんがさばいたフグと刺し身

 ベトナムでは食中毒が相次いだことなどを受け、約20年前にフグを捕ることも食べることも法律で禁じられた。ただ、2017年と昨年、当局の許可を取ってベトナムで開いた日本産フグの試食会は大好評。ベトナムでは高級魚のハタ、サワラと日本の養殖トラフグで揚げ物や鍋を作って食べ比べてもらうと、栄養学の研究者や政府職員ら参加した約100人のほとんどは「フグの方がおいしい」と答えた。

リンさんがフグのサンプル収集で訪れたベトナム中部の都市ホイアンの漁港=本人提供

 こうした経験からリンさんは「日本の免許制度を参考に、専門知識を持つ調理師が安全なフグを提供する仕組みができれば、これまで捨てていた魚がお金になる」と確信。「ベトナムでもおいしいフグを食べられるようになり、漁師の収入は増え、皆が幸せになれる」と期待を膨らませる。

北中部ゲアン省の朝市=本人提供

 ベトナム国家大学ハノイ校で日本語や日本文化を学んだ。ミツイ水産(宮崎県延岡市)がベトナムで社員を募集しているのを知り、「一度は日本へ行き、新しいことをしたい」と応募した。同社の主力商品はフグ。フグの味は知らなかったが、面接では「フグ食文化をベトナムに持ち帰りたい」と宣言。14年の入社後に初めてフグの刺し身などを食べ「透明感があってゼリーみたいな食感。知っている魚と違う」とおいしさに衝撃を受けた。
 フグについて本格的に学ぼうと、16年にいったん退社して十文字学園女子大(埼玉県新座市)の大学院に入り、5年間で修士号と博士号を取得した。日本で食用にされ、ベトナムにも生息するシロサバフグとクロサバフグを主に研究。この2種はベトナムで捕獲された個体でも筋肉に毒はないことを確認した。今は復職し、自宅を同社事務所として営業の仕事をしながら、同大の「アジアの栄養・食文化研究所」で研究も続けている。研究室での愛称は「フグちゃん」だ。

【捨てていた魚が漁師の収入に】ベトナムでフグ食文化の確立を目指すヴゥ・テゥイ・リンさん=清瀬市で

 ミツイ水産が、ベトナムで計画を進めているフグ専門レストラン。リンさんは「日本のフグなら今の法律でも輸入販売許可が取れる」と判断し、店舗用の土地を確保した。「まずは輸入品でベトナムの人たちにフグ食に慣れてもらう。そこからフグの調理師免許制度の創設やフグ漁の解禁、無毒フグの養殖などにも進んでいければ」と未来図を描く。
 昨秋にファム・ミン・チン首相が来日した際に面会し、ベトナムへのフグ食導入を提案すると「未利用資源をぜひ活用して」と励まされた。法改正に向けた希望も感じたという。リンさんは「ベトナムで成功したら、東南アジア全域にフグ食文化を広げられるかもしれない。誰もできないような面白いことを成し遂げたい」と目を輝かせた。
 文・林朋実/写真・五十嵐文人
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