日本映画界いまだ「男性優位」深刻 監督や配給大手役員に女性わずか 進出を阻む劣悪な労働環境とは

2022年7月26日 06時00分
 日本映画業界のジェンダーギャップ(男女格差)が深刻だ。調査を行う「ジャパニーズ・フィルム・プロジェクト(JFP)」は「課題が見えているのに変えようとしない。人権に向き合っている様子が見えない」と苦言。世界的潮流であるジェンダーギャップの解消に後れをとれば、日本映画の評価に影響を与え、多様な作品の誕生も阻害しかねない。(沢田千秋)

◆監督らプロジェクト設立し調査

 JFPは、映画界のジェンダーギャップや労働環境の改善を目指し、昨夏に映像作家や映画監督らが設立。7月上旬の記者会見で今年の調査結果を公表した。「2021年の興行収入10億円以上の実写映画16本中、女性監督はゼロ」「過去4年間で、大手4社の劇場公開作品(実写)の女性監督は20人に1人」
 大手4社は、映画制作配給を担う東宝、松竹、東映、KADOKAWAで、役員、執行役員の女性割合は計102人中6人のみ。制作現場では、監督のほか、撮影や照明など業界内で地位が高い役職の女性比率は1割前後。19~21年はほぼ横ばいだ。
 JFP代表理事の歌川達人氏は「(日本の映画界は)意思決定層に女性がいない。女性が少ないことは分かり切っているのに、ここ2、3年調査して変化が見られないことが今回のキーワード。4社の役員の割合はむしろ減った。映画会社として、ビジネスと人権(の問題)にどう向き合うのか」と問い掛ける。

◆トイレや宿泊施設も男女共用

 制作現場の「男性優位」は、その歴史が関係する。映画研究者の鷲谷花氏によると、1960年代までの現場で働いていたのは、映画会社直営の撮影所と雇用契約を結んだ賃金労働者だった。労働組合を組織し、就業規則も厳しく監視。当時の採用が男性限定だったことが、今も現場の雰囲気に影響しているという。
 80年代以降、業界の衰退で制作部門は外注化が進み、現場はフリーの個人事業主が大半になった。契約書もない低賃金の長時間労働が常態化。トイレや宿泊施設が男女共用の場合も多く、JFPの調査に、ある女性は「山奥の撮影で、使ったナプキンをポリ袋に入れて持ち帰った」と回答。劣悪な労働環境も女性の就労の障壁だ。
 衣装やメークの女性比率は比較的高いが、JFPが調査の土台とした「映画年鑑」で、衣装の記録を残したのは2021年の作品全体の3割にとどまる。歌川氏は「衣装、メークなど花形でない役職へのリスペクトが欠けている」と話す。

◆国際的な賞レース参入に影

 米アカデミー賞は24年から、作品の出演者やスタッフに女性や人種的、性的マイノリティーなどを一定の割合で含むことをノミネートの要件とした。日本映画界に変化の兆しがなければ、国際的な賞レース参入に影を落とす。
 業界の構造的な問題解決に向け、JFPはフランスや韓国のように、興行収入を徴収して業界に還元する公的支援組織の必要性を挙げる。邦画、洋画合わせた興行収入は新型コロナウイルス流行前の19年に過去最高の2611億円を記録。JFP理事の近藤香南子氏は「どれだけ映画がヒットしても、給料は上がらない。興行収入の行き先はブラックボックスだ」といぶかる。
 ジェンダーギャップ解消による作品の質の向上にも期待を寄せる。「監督に当事者性があれば作品に反映される。女性の視点が入れば、より豊かな作品につながる」

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