やまゆり園事件6年 明治大・佐々木隆志兼任講師「障害者と関わり尊重を」 独自検証で次世代に説く

2022年7月26日 07時14分

やまゆり園での殺傷事件を学生に伝える佐々木さん=東京都千代田区で

 相模原市の県立障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら四十五人が殺傷された事件から、二十六日で六年。社会に根深く残る障害者差別をなくそうと、事件に向き合い続ける人がいる。(米田怜央)
 「『誰しも共に』と言うは易く難し」。六月下旬、明治大駿河台キャンパス(東京都千代田区)の教室に、事件を受けて作られた鎮魂歌「やまゆり咲く里」が流れた。社会福祉の講義で、佐々木隆志兼任講師(65)は教壇から学生に語りかけた。「この事件をきっかけに福祉を考えてほしい」
 事件が起きた二〇一六年、静岡県立大短期大学部で社会福祉論の教授として、福祉施設職員を志す学生らを指導していた。「意思疎通のとれない障害者は要らない」との主張を繰り返す植松聖(さとし)死刑囚(32)を許せなかった。同時に、その背景を探ることに使命を感じた。三男の豪さん(26)には広汎性発達障害がある。ひとごととは思えなかった。
 事件後、豪さんはおびえていた。自室に取り付けるための鍵を買いに行き、夜になると「植松が殺しに来る」とうなった。心配した妻からは「事件に関わらないでほしい」と何度も頼まれた。悩んだが、「障害のある子も生きやすい社会にするために避けるわけにはいかない」と決意した。
 最初の交流は手紙だった。丁寧な言葉で返信が来たが、「全ての命は等しい」というメッセージは明確に否定された。ただ、文面から「障害者への強い憎しみまでは感じなかった」という。犯行動機に疑問が残ったまま、一八年四月から接見を重ねた。そこで、植松死刑囚から差別思想以外の言葉がこぼれるのを聞いた。
 学生を伴って接見した時のこと。犯行動機をあらためて聞くと、植松死刑囚は即答した。「目立ちたかったから」。その発言に孤独を見た。「社会から認められたい思いがあったのではないか」
 手紙のやりとりを通じ、植松死刑囚が入所者を助けてもその家族から感謝されなかったというエピソードなどを知った。「障害者を一人の人間として見ていないからケアへの充足感を感じられず、孤立を深めた。そう思わせてしまったのには社会全体の問題があるはず」との思いを強めた。
 刑事責任能力が争点となった裁判員裁判では、背景は十分に解明されなかったと感じ、独自の検証を今も続ける。植松死刑囚の成育環境や、やまゆり園と地域の関係はどうだったのか。一七年から毎年、自宅のある静岡市から片道二時間以上をかけて施設周辺へ通い、住民へ聞き取りを続けている。今年で六回目。少しずつ話をしてもらえるようになってきた。
 障害者施設での事件はなくなっていない。中井町の県立施設「中井やまゆり園」では今年四月、職員が入所者の肛門に金属製ナットを入れた可能性が高いとする事例が報告された。「障害のある人を人間だと思わない社会が続いている」と怒りをあらわにする。
 学生への講義ではこう説く。「社会福祉に必要なのは、試験で問われる知識や技術だけではない。倫理こそが大切だ。誰もが日常的に障害者と関わる社会になることで、相手を一人の人間として尊重できるようになる」。次世代の教育に心を砕くことが、「誰しも共に」の実現につながると信じている。

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