<社説>防衛白書 予算倍増の説得力欠く

2022年7月26日 07時52分
 二〇二二年版防衛白書はウクライナに侵攻したロシアや軍拡を続ける中国への警戒を強めてはいるが、「脅威」とは位置付けなかった。防衛費を五年で倍増させるような急激な防衛力増強の根拠を示したとは言い難い。
 政府は六月に閣議決定した「骨太の方針」で「防衛力を五年以内に抜本的に強化する」と明記し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が対国内総生産(GDP)比2%以上の国防支出を目指していることも例示した。
 白書では、二一年度の防衛費は対GDP比0・95%と、先進七カ国(G7)や韓国と比べて最も低率だと指摘。英仏独各国や韓国の国防費は国民一人当たり日本の二〜三倍と強調している。
 欧州のNATO加盟国はロシアと地続きの上、相互に防衛義務を負う。韓国は北朝鮮と軍事境界線を挟んで対峙(たいじ)している。日本とは安全保障環境が異なる欧州各国や韓国との比較で防衛費の倍増を訴えることには無理がある。
 日本周辺国の軍事動向に関する分析も、防衛費を短期間で急増させるには説得力に乏しい。
 白書は、北方領土や極東地域のロシア軍に活動活発化の傾向があるとしつつ、戦力は「ピーク時に比べ大幅に削減された」と併記。ウクライナ侵攻も踏まえ、昨年版の「注視」より表現をやや強めたものの「懸念を持って注視」との姿勢にとどめている。中ロの軍事協力への警戒感も同じ表現だ。
 中国の軍事活動拡大を「安全保障上の強い懸念」とした従来の表現を踏襲し、その傾向が「近年より一層強まっている」と加えた。
 地域情勢の変化を踏まえた防衛力整備の必要性は理解するが、中ロをともに「脅威」とみなし、五年以内の防衛費倍増を求めた自民党提言と、「懸念」にとどめる政府とは情勢認識に隔たりがある。
 政府は年内に「中期防衛力整備計画」を改定し、二三年度以降五年間の防衛費の大枠を定めるが、「数字ありき」で防衛力を増強すれば、周辺国には脅威と映り、地域の緊張を高めかねない。白書にも明記した「平和国家の建設」を踏み外さぬよう重ねて求める。

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